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予想外の手応えだったからか、はっとしたように、グレゴが戦鎚を手もとに引きもどす。その長さはもとの半分ほどになっていた。〈首のない夜会服の女〉のからだの向こうで、ごとりと金属の塊が地面に落ちる。戦鎚の柄のなかほどが喰われたように消え失せていた。
しろくしなやかな手がさまようように宙を泳いで、グレゴを捕えようとする。それを、払い、突き、払い、とするうちに、戦鎚は、みるみるみじかくなっていく。
たすけに入ろうにも、俺は〈餓狼〉の一本を手にして動けずにいた。力があふれるどころか、逆に、全身の力を吸いとられるようだった。
戦鎚とよぶには短くなりすぎた棒きれをもってグレゴが距離をとり、〈首のない夜会服の女〉は、標的をかえて俺にむかってきた。逃げるどころか立っていることすらあやしい状態で、よろめいて倒れたところへ白い手が伸びてくる。触れられたらおしまいだ。
手にした〈餓狼〉を離して、立ちあがろうとしたが、まだ全身に力がはいらない。迫ってくる白い手が視界の端で浮かびあがるようにしている。ほとんど触れられたかと思え、肌に悪寒を感じたとき、うしろから服をひっぱられ、気付くと、レナが俺をひきずって逃がそうとしていた。もし、いま触れられたら、レナを巻きこんでしまう。
離せ、離せと、わめくのに、強情なレナは、まるで聞こうとしない。〈首のない夜会服の女〉の白くしなやかな手が迫っていた。
『にゃにをしてる! 義足を使え!』
と、気の抜けそうな声が聞こえた。ああ、クロ《=大魔法使い黒猫ver》の声だと思うのと、銀の義足を緩慢に持ちあげるのと、ほぼ同時だった。自分としては、義足で蹴りとばそうという気持ちだったが、実際には、倒れたまま足を持ちあげ、〈首のない夜会服の女〉に足裏をむけたに過ぎなかった。
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