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第57話 軟体動物
黒猫を肩にのせて、森のおくへ。
ふりかえりもせずに走り続けていた。はたして、背後から〈首のない夜会服の女〉が追ってきているのかどうか。わるい予感、わるい気配が消えないところをみると、おそらく、まだ追ってきているのだろう。
首のないからだに意思のようなものは感じられず、淡々と、容赦なく、焦りもなく、侵入者を木に変えていく。
狩人として育った俺やレナはともかく、あまり発育のよくないアーがながく走りつづけるのは難しかった。すこしずつ遅れだし、限界が近いのはあきらかだ。
それをグレゴが有無をいわせず抱きかかえて走りはじめた。戦鎚をつかっていたところをみても、いわゆる神官戦士なのだろうか、体力も尋常なものではない。ただ、「森のおくへ! そこに魔女の首がある!」と不意に叫んだ俺をみる目には疑念がこもっていたが。
「クロ、どうだ。追ってきてるか?」
『ああ、追ってきてるね。すぐ近くにいるよ。だが、急ぐ必要はないぞ。無差別かつ自動的に標的を追っているだけだ。話ができる程度、レナやグレゴに無理をさせない程度に走れ』
「わかったよ。しかし、いろいろ知ってたなら教えておいてくれよ。最近、にゃごにゃご言ってばかりじゃないか」
『すまん、すまん。ネコになっている時間がながすぎるものでな。心のありようは、体のありように影響をうけるものよ。ひなたぼっこに命をかけるこの軟体動物は基本的に楽観動物でもあるからの。警告しわすれておったわ』
にゃっはっはっ、と、のんきに笑う姿には不安しかないが、気をとりなおして魔女についてきいてみた。
『森の魔女は、もとは高名な魔法使いだ。我らの時代の魔女とは意味あいがちがう。変身魔法を得意としていたのだろうな。それも、自他ともに変身させる強力なやつだ』
「それだけなのか? 戦鎚を喰っちまったのは、どういうことなんだ」
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