2人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
眠り
「おい、爺さん。グリル爺さん・・・・・・って、眠っちまってるじゃねえか」
退役勇者専用の介護施設。
ここで働き始めてから既に10年以上が経とうとしている職員の一人であるサイロは、車椅子に乗ったまま目を閉じている老爺に、声をかけていた。
「まあ、いいか。今日は何回か炎、暴走させてたもんな」
既に日課となったグリル爺さんの儀式──要するに、自分に向かって放たれる火炎放射を避けること──が、普段よりも多かったことを思い出しながら。
サイロは、ゆっくりと車椅子を押していく。
グリル爺さんは、安らかな寝顔で眠っている。その老いた顔には、珍しく満面の笑みが浮かんでいた。
「昔の夢でも見てんのかな」
小さくつぶやくと、サイロは再び、車椅子を押して歩き始めた。
最初のコメントを投稿しよう!