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Prologue 転生転校生
刺された……。
そう直感しながら、オレはカブキ町の濡れたアスファルトに倒れ込む。
右脇腹をかなり深く抉られていた。
すれ違い様に、目が合っただけなのに。
─このヤロウ……。いきなり後ろからナイフで刺すなんて、不良の風上にもおけねえ……。
起き上がろうとするが、まったくカラダが動かない。
「おい、クソガキ!この辺りで、イキってんじゃねえぞ。ここはテメーのガッコじゃねえんだ。メンチきった瞬間に即、殺し合いのケンカ場になるんだぞ、コラ!」
刺したチンピラが捨て台詞を残して走り去った。
─やべえよ……。死ぬかもな、これは……。
鼓動に合わせては脇腹の奥深いところから、信じ難い痛みの渦がわきあがってくる。
吐気。そして、身体が痙攣して口と鼻から何かが噴き出した。
血の塊だ。どろりとした……。
─十六年の短い人生が、こんな終わり方なのかよ……。
金属を打ち鳴らしたような耳鳴り。そして、激痛の波。
─もしも、カミ様ってヤツがいるなら、いま流行りの転生でもさせてくれってんだ。どこでも、いいからよぉ……。
やけっぱちの神頼みをしながら、どんどん意識が遠のいていく。
奈落へ。ただただ、落ちてゆく。
だが、突然、暗闇が反転する。
白っぽいノイズとまばゆい白光………
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
それに揺さぶられ、なぜか、目が覚めた。
瞼を開くと、………………………
…………………そこは教室だった。
オレは教壇の横に立たされ、隣には筋肉隆々、イカつい坊主頭の教師がいる。
「テメーら、喜べ。新しい転校生だ。おら、拍手!」
坊主頭の教師を、ほとんどの生徒が無視していた。
教室の中は男子生徒でばかりで、どいつも見るからにガラが悪い。
机の上に両足を投げ出しているヤツがほとんどだ。
「おい、転校生。自己紹介しろ!」
筋肉坊主頭が命令する。
─えっ、オレ!?……なんだよ、いきなり。
「……オレは、リュウ・カイト。……よくわかんねえけど、訳あって、ここに転生……いや、転校してきた……らしい。ヨロシク」
「なんだ、その挨拶は!……まあ、いい。いきなり問題、起こすんじゃねーぞ、カイト。おまえの席は、あそこだ」
坊主頭が窓際にひとつだけある空席を指さす。
「わからないことがあったら、隣の保健委員、兼、ナンデモ係のマイコーに訊け。テメーが新入りの面倒をみてやれ、マイコー」
「……はい、わかりました」
マイコーと呼ばれた生徒が頷く。
─見るからに、コイツがこのクラスのパシリか……。
オレはマイコーに顎で小さく挨拶してから、隣の席に座った。
その時、チャイムが鳴る。
「テメーら、昼休みだからって、勝手に学外へ出るんじゃねーぞ!」
捨て台詞を残し、坊主頭の教師が教室から出ていった。
「あのぅ……、カイトくん」
隣のパシリが話しかけてくる。
「なんだよ」
「ボクはマイケル・リナベール。よろしくね」
「あ?」
─マイコーの本名が、マイケル・リナベール!?……パシリのくせに外人なのかよ!……いや、外人のくせにパシリに成り下がったのか?
「カイトくん、ヤンクェル・キィーナス魔法高等専門学校へ、ようこそ」
─やんくぇる・きぃーなす?……魔法高等専門学校!?……なんだよ、それ。
どうやら、カブキ町の外れでチンピラに刺されたオレは、魔法高等専門学校とやらがある世界に転生……いや、転校させられたみたいだ。
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