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悠李は不思議そうに小首を傾げた。
「ダメ?」
「いや、ダメではないけど。ただ……意外っていうか」
「そう?」
「うん。なんか、思ってる人と違った」
悠李は声を立てて笑った。
「どんな風に思ってたんだ、俺のこと」
「完璧で、隙のない人」
「バカだな。そんなわけないでしょ」
「そう思ってたの、今の今まで。結婚してるか、少なくともカノジョとかいて、仕事もプライベートも順風満帆って感じの人かと」
「ないない。むしろ散々だよ、俺のプライベートなんて。裏表なく人に優しくしてるだけなのに人たらしって言われたりするし、女性にはモテるのに男はさっぱりだったりするし」
あぁ、と宗佑はあいまいに返事をした。人たらしというのは少しわかるような気がした。彼のようなイケメンに気にかけられ、優しくされたら勘違いする女性もいるだろう。男にモテないというのはよくわからないけれど。
「話を戻すね」
悠李が表情を引き締める。
「確かに俺は、きみのことを容姿から好きになった。でも、これまで何度も伝えたとおり、俺はもっときみのことをよく知りたいと思ってる。俺のことも知ってもらいたいし、その上で俺を信じてもらいたい。きみが唯一信じられたお父さんのように、俺もきみが無心で頼れる存在になりたいと思ってる。きみが安心できる居場所になってあげたいって」
悠李はこれまでで一番きれいに微笑んだ。
「きみが自分自身を嫌いでも、俺はきみのことが好きだよ。どうしようもなく、好き。きみがきみを嫌うなら、俺がその分きみを愛す。きみのことを、きみの分まで好きになる。だから」
悠李の右手が、宗佑の左手をすくい上げる。両手でふわりと包み込まれる。
「いさせてよ、きみの隣に」
視線が交わる。優しくて、なにも憂えることはないのだと教えてくれるような瞳。
あぁ、似てる。
父さんの瞳にそっくりだ。
この世でたった一人、心から信頼できたあの人の瞳に――。
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