第一章 都のはずれ

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 英語部であおいちゃんとあーちゃんと仲良くなれたのは、ひとえにふたりがすごくいい人だからだ。 「先生の小説は、全部読ませていただいてます」  机を向かい合わせた面談スタイルの教室に、推しに対してアピールする担任の声がこだまする。  三十代の男性教諭は、小説家八宮徹舟のファンだと公言しており、今日のこの面談をとても楽しみにしていた。眼前のあこがれの徹舟先生へ、本の感想をひたすらしゃべり始めた。もちろんほめちぎっているのである。ファンの鏡か。  断っておくが、てっちゃんは誰もが知っている有名作家ではない。けれど、その独特の作風から、熱心な固定ファンを獲得していた。  どんなに熱心なファンがいようが、売れっ子でない小説家はこの出版不況で生活水準が非常に低い。低いどころか、兼業でしか食べていけない。  てっちゃんもご多分に漏れず、フランスの小説を翻訳したり小説以外の仕事をしてなんとか収入を得ている。
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