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くっ、昨日徹夜で遡上し続けたせいなのか?
どうやら一瞬意識を失っていたらしい……。
次々とオスたちが僕を追い抜いていく。
まずい、このままじゃメスのそばを陣取れないじゃないか。
クソッたれ、どけどけぇ。
一番良い雌の隣は俺のもんだぁ!!
次の瞬間、突如頭上に現れる黒い影。
しまった、と思ったときには横っ腹にとんでもない一撃をくらわされていた。
骨のきしむ音、水面から強制的にうちあげられ、世界がゆがむ。
ぐるぐると回る視界に大きな黒い影。
脳が揺れ、景色がゆがむ感覚。脱力感と浮遊感。
僕の魂に刻まれたこの感覚は……。
「美玖ちゃん?」
「隆君?」
またあえた、と喜ぶ間もなく、美玖ちゃんが僕に噛みついた。
鋭い牙が体にめり込み、その顎の力で骨まで砕かれる。もう体をばたつかせる力も残っていない。
美玖ちゃんが本能に勝てず僕を食らうのも無理はない。
熊となった美玖ちゃんが、久しぶりのご馳走である鮭を前に遠慮などできるはずがなかった。
その鮭が、たとえ僕であったとしても。
「隆君、美味しい……」
薄れ良く意識の中でその言葉を聞き、僕は幸せに包まれた。
美玖ちゃん、また生まれ変わっても君に会いたい……。
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