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【15】シスコン来たりて。
「冬氷いぃぃぃっ!!」
「ちょっとぉっ!こんなところで絶叫しないでよ!」
お兄ちゃんってバレたらどうすんのよ……!
私の襲撃事件への幕引きとして、実家から元凶たちが消えて……数日。すっかり平穏を取り戻したと思いきや……これである。
ここは高級ホテルのロビーである。間違っても大声で叫んでいいような場所ではない。
そもそも……お兄ちゃんがお兄ちゃんだって周りにバレたら大変なことになるのに……!全くこのシスコンはシスコンすぎてたまに……いやしょっちゅう周囲が見えなくなる……!
「プライベートラウンジ予約してっけど……行くか?」
「そうして?椿鬼」
お兄ちゃんが身バレする前に、とっととずらかるべきである。
「ちょ……ちょっと待て冬氷……!だ、誰だその男」
いや、お兄ちゃんったら……!思わず眼鏡ずれてる!周囲がちょっとざわつき始めてる!
気付かれるうぅっ!!
「椿鬼……!急いでラウンジに!この人移送できる!!」
「ん?まぁな」
椿鬼は頷くと素早くお兄ちゃんの懐に入り込む。
ドゴッ
ひーっ!?お兄ちゃん沈めた!!強引に拳を懐に打ち込んだぁぁ――――――――っ!
「どうやら具合が良くないらしい。とっととラウンジに運ぼうかそうしよう」
「そうね!きっと長旅の疲れだわ!休ませてあげなくちゃ!」
そしてしれっとお兄ちゃんを肩に担ぐ椿鬼。成人男性を意図も簡単に……。まぁ、それはそれで感謝よね……!
私たちは……ラウンジへ急いだ。
――――――プライベートラウンジ。
「ん……うん……ここは……?……はっ!!妹おぉぉぉぉ――――――――っ!!!けほこほっ」
目ぇ覚まして第一声がそれかよ。そしてマスクが苦しいのか咳き込んだ。
「お兄ちゃん、恥ずかしいからやめて。あとここ、もう私たちしかいないプライベートラウンジだから!変装解いていいよ」
そう言うとお兄ちゃんが帽子、グラサン、マスクを外す。
すると何とまぁ……すごいオーラの完璧イケメンがあーらわれたー。
※但し残念なシスコン。
「は……っ、冬氷無事で……って、何だその男はあぁぁぁっ!」
「何って」
隣に腰かける椿鬼を見れば、椿鬼がごく普通とばかりに私の腰を抱き寄せてくる。
「んもぅ、椿鬼ったら、そう言うのいいから」
「だめ、俺がやりてーの」
ひぁうっ、顎くいまでキメないでよおぉぉっ!私は壁のモブだったはずなのに何故こんな甘々展開に――――っ!
「まぁとにかく、私、将来椿鬼と結婚することになったから。家にも戻らないからよろしくね、お兄ちゃん」
伝えたいことを伝えればもうそれでオッケーだし。
「いやいやいや……!待ってくれお兄ちゃんは認めないいぃぃっ!」
「んー……一応お父さまは婚姻届にサインしてくれること確定してるから問題ないわ」
一応戸籍上の父親だし、今まで何もしてこなかった詫びだと、快く引き受けてくれた。私をかつて助けてくれた使用人も見つかって、今は別のお屋敷で……実は真白さまのもとで働いていたので、署名もらえることになったし。
高校卒業したら早速婚姻届を出すことに決まったのだ。
「だ、だけどお兄ちゃんに何も言わず~~っ!いやだぁ――――――――冬氷が結婚だなんて……えぇい、分かったぞ!!お前と冬氷を賭けて決闘だぁぁぁっ!」
「俺ぁ別にいいが?」
ニタァッと嗤う椿鬼。
「いや、よくない、よくない!」
こやつ完全に自分が勝つからマジで余裕~~!対するお兄ちゃんは……アクションも難なくこなすイケメン人気俳優ではあるが、人間離れした忍の長にかなうはずもない。確実に負けるな。勝たれても困るが……力の差は歴然である。
「とにかく、お兄ちゃん。今までありがとうね」
「あぁ――――――――――っ!!冬氷のそんな言葉聞きたくなあぁぁぁ――――――――いっ!!!」
そしてお兄ちゃんはこの後30分泣きまくった。いや、子どもよりやべぇなこの兄。体内の水分量大丈夫だろうか……?
「……そう言えば冬氷」
注文したコーヒーを啜りながら、目元を腫らして問うてくるお兄ちゃん。
「何か実家が父さんだけになってたんだけど。使用人たちは?じいちゃんとばあちゃんは……」
「さぁ……?どうだか」
私も詳細は知らない。しかし御星家が持っていた不動産のほとんどは既に売り払い、今はあの実家の邸宅だけ。あそこにはお母さまやお兄ちゃんとの思い出も少なからず残っているので、お父さまが生涯ひとりであそこを守っていくことを罰としたのだ。使用人もいない中、苦労はするだろうがそれも罰。お兄ちゃんが個人の資産で誰かを雇うなら反対はしないが……お兄ちゃんはお兄ちゃんで自分のマンション持ってるし、あそこを拠点に暮らすことはないだろう。
「冬氷は……帰ってくるんだよな?」
「さっき帰らないって言ったでしょ」
少なくとも今は……あそこに帰ろうとは思えない。統木の離れの居心地が良すぎて。
「あぁ――――――――――――っ!!!」
再び崩れ落ちるお兄ちゃん。しかし……椿鬼は統木に仕える忍。芸能界で活躍する兄とは……多分、会わない方がいいだろう。あと、シスコン普通にうざいし、お兄ちゃんは嫌いではないのだが……。
やはり周囲からの羨望や嫉妬に絶えずさらされるよりかは……。椿鬼や離れのみんなとの時間の方が心地よい。
「ばいばい」
「じゃあな、負け犬」
「いや、やめなさいってもうっ!」
その後聞いた話では、お兄ちゃんはマネージャーさんが迎えに来て尻を叩くまで延々とラウンジで泣き潰れていたらしい。ほんっとシスコンすぎて……妹の荷が重い。
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