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「せ、先輩?!」
「もしかして、今終わったとこ? 急なシフト変更、大変だったね」
まだ状況がいまいち飲み込めていない私に、タカ先輩が話しかけてくる。
「終電が来てもマナちゃんの姿が見えないから、閉店作業に時間かかってんのかなって思ってかけてみたんだけど……」
タカ先輩の声に重なって、スマホから駅のホームの発車ベルの音が響いてくる。居酒屋の最寄り駅のベルの音だ。
「先輩っ! 今、どこですか?」
「今、ちょうど店の最寄り駅の改札で――」
「す、すぐ行きます! 待っててください!」
タカ先輩が、すぐそこにいる。そう思ったら、ネガティブな考えは頭から全部吹っ飛んでしまって。先輩の声を遮るように叫んで、通話を切っていた。
駅までは、ここから走れば五分もかからない。
スマホをカバンに突っ込むと、駅に向かって走る。
ラストまでバイトのシフトに入るときは、最終電車に乗るためにいつもダッシュしていて、店から駅まで走るのには慣れている。
それなのに今は、タカ先輩に会いたい気持ちがはやるばかりで、駆ける足がうまく回らなかった。
ヒールの靴のせいで、地面に踏み込む足にも力が入らない。
焦っていると、自分の足に足が絡まって、前から膝をついて転んだ。
ロングスカートの布地のおかげで流血は免れたけど、コンクリートに打ち付けた膝が痛い。脱げた右足の靴が、ひっくり返って横に転がっていた。
こんなときに、最悪……。
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