春の嵐 ―四月―

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黙ってうなずくオレを見届けて小早川先輩も部室をあとにしたようだった。 ──オレは、痛む腹をさすりながら予定通り部室の掃除を始めたけど……。 急にむかっ腹が立って、手近にあったロッカーを、思いきり蹴り飛ばした。 折から吹いていた強い風に、部室の扉がきしんで、不協和音が鳴り響く。高い位置にある小窓を、雨粒がはじき始めていた。 外に出ると『春嵐』の言葉通り、強い風と雨にさらされた。 本当は、風が強いことだけを指すんだろうけど……四月下旬のいまなら、『春』の『嵐』で、間違いないんだろうな。 せめて、あと十分も早ければ、雨に濡れることもなかっただろうと思うと、また怒りがこみあげてきた。 ずぶ濡れになって家に帰ると、家のなかがやけに静かで、両親が法事で留守にしていたのをふと思いだした。 むしゃくしゃした気分のまま、シャワーを浴びる。けれども、一向に収まらない怒りに、冷蔵庫から姉貴が冷やしてる缶ビールを取り出した。 ──低俗でくだらないアレコレを、笑いながら話していた松井先輩に、オレは何ひとつ反論できなかった。
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