第6章 サインは出してません!

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私が振り向いたことに微笑み、名残惜しそうに小刻みに手を振っていた。 それにゾッとした。 薄気味悪くて吐きそうになった。 三十分前に食べたマロンケーキのマロン味が口の中に上がってきた。 胃の中の食べ物が消化不良を起こしてる。 本来のカップルなら双方ともにこやかに手を振り合う場面。 たったそれだけの仕草に幸福感が身体中に満ち溢れる。 この上ない甘美な心地に浸り、足取りも軽く ……。 しかし、こちらが手を振るなど、そんなことはあろうはずもない。 手を振るどころか、思いっきり腕を動かして巨大なバッテン……それも三重バツ✖️……をしたい衝動に駆られたけど、拳を握っただけでなんとか我慢した。
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