メイドとして働き始めました

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 新菜はハクアとともにソファに座り、侯爵夫妻との歓談に興じていた。  本来なら使用人が主と同席するなど考えられないことだろうが、侯爵夫妻は寛容だった。  ニナも座って話をしようとイグニスのほうから言ってくれたのだ。 「ええ。ハクアが王女と侯爵という身分の差に悩むイグニスの背を押してくれたから、イグニスは私に求婚してくれたのです。侯爵は上級貴族。過去に王女が降嫁した例はありますし、何ら問題はないというのに、私には他に相応しい人がいるとか言い訳して。私はとうの昔に心を決めていましたし、視線や動作で幾度も好意を訴えていましたのに。意気地がないんですから」  アマーリエは唇を尖らせた。 「仕方ないだろう、君にどれだけの縁談があったと思うんだ。国内の名だたる有力貴族に、他国の王子や辺境伯。俺より遥かに財力があり、身分の高い者ばかりだ。躊躇しないほうがおかしい」 「もう。とにかく、私たちは結婚の許しを得るべく、お父様に思いを伝えたのです。するとお父様は言いました。これまで誰にも倒せなかった、国境を荒らす凶悪なワイバーンを討伐することができれば許す、と。無理難題だと思いましたが、イグニスは私の制止を振り切って国境へ向かい、見事に成し遂げたのです」  アマーリエは紅茶の入ったティーカップを手に微笑んだ。  ただティーカップを手に微笑む、それだけで絵になる。
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