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コクコクと音がして、レイラの喉をオレンジジュースが流れていくのがわかる。
_____ヤバいっ
ぼんやりとレイラを見つめていたことに気づいて、慌てて視線を逸らした。無意識にレイラの眩しいほどの鎖骨のあたりを凝視してしまう自分が恥ずかしい。
「美味しいっ、ふーみんさんといるから特別美味しいのかな?」
「え?あ、そんなことは……ぶっ、げほっ、げほっ」
なんだか照れ臭くて急いでコーヒーを飲んだら、おかしなところに流し込んでしまったみたいだ。
「大丈夫ですか?これ、よかったら使ってください」
レイラはバッグから柔らかいタオル地のハンカチを出して、僕の顎のあたりを拭いてくれる。ハンカチは石鹸のようなほのかにミルクのような、とてもいい匂いがした。
「ごめんね、綺麗なハンカチ、汚しちゃった」
「気にしないでください。ハンカチはそういうものですから。あ、ちょっと貸してくださいね」
そう言うと僕のメガネをはずして、ハンカチでレンズを拭いてくれた。
「はい、これでちゃんと見えると思いますよ」
「あ、ありがとう」
両手で僕にメガネをかけてくれた。思った以上に接近していることに気づいて、ドキドキしてしまう。
_____近くで見ても、やっぱりレイラは素敵だ
まるで異世界から現れた姫のようだ。
「ふーみんさん?」
「あ、ごめん」
思わず見つめてしまって、恥ずかしい。
そもそも、こんな可愛い女の子と同じベンチに座っていることすら、現実味がない。
さっきまで近くに人はいなかったのに、またあちこちから視線を感じる、それも好意的ではなく好奇の目。スマホがこちらに向けられているのがわかる。
「ごめん、レイラさん、僕、もうっ!」
その場にいることがいたたまれず、レイラを置いて走り出した。
「えっ、ふーみんさん?待って!」
レイラが呼び止める声が聞こえたけど、僕は振り返らずに必死に走った。きっと不釣り合いな僕とレイラを写真に撮って、勝手なコメントとともにSNSにアップするに決まってる。
そう思ったらもうとにかく、そこから逃げ出すことしかできなかった。
やっとアパートに帰り着くと、リュックを投げ出しベッドに寝転んだ。
_____あー、何やってるんだ、僕は
理想の女の子とのデートだったのに、ろくに話も出来ず、置いてきてしまった。
「最低だな、僕は」
布団をかぶり強く目をつぶった。
ピロロロロロロ🎵
ピロロロロロロ🎵
ピロロロロロロ🎵
誰とも話したくないのに、スマホの着信画面には、ガンちゃんと表示されていた。仕方なく応える。
『ようっ!デートしてきたか?』
「え?デートの話なんてしましたっけ?」
『俺にはなぁ、お前のことはすべて見えるんだよ』
_____あ、そうだ、ビデオ通話だった
いや、そうじゃなくて。
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