蜜愛05 焦想

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 聡子と話し込んでいると、会社の社長がやって来た。  スパッと引き戸を小気味よく開けて入ってくる。 「お待たせしたね!! …って、あれ?きみは…」 「はい。いつもお世話になってます。藍沢和真です」 「そうか、きみが篠原くんの彼氏なんだね?」 「違います」「その通りです!!」 「ん?違うの?篠原くんは、いい子だよ?名前で判断しちゃいけない」 「俺の好みじゃありません」 「ん〜、バッサリ。篠原くん、頑張れ」 「大丈夫です。諦めなければ、そのうち陥落しますから!!」 「えっと…俺、帰ってもいいですか?」 「「ダメ!!」」  暫くコントが続いた。 □◆□◆□◆□  散々やり散らかして、ようやく本題に入った。 「合格」 「…」  何も聞かずに、社長は言った。 「あの…」 「ん?だから、合格。藍沢くんは、採用です」 「…」 「理由が聞きたい?」  社長は、和真が座る横を指さした。  そこには、和真の道具たちがいた。 「その、きみが大切にしている道具たちを見れば分かる」 「…」 「この生業が好きかどうかがね。きみは、篠原くんと同類」 「…」 「この業界、好きじゃないとやってられない。重労働だからね。好きだから耐えられるんだ」 「そうですね。自分の父親は、建設会社を経営しています。将来的に後を継ぐつもりです」 「それは立派な事だ。篠原くん、きみは起業を目指してたよね?」 「その予定でしたけど、彼の跡目のお手伝いもいいかと」 「ああ、そうだね。嫁いだら、二人でもり立てていける」 「でしょ?社長はやっぱり話が分かってるぅ!!」 「えっと、そっちだけで話を進めないで下さい?」  戸惑う和真に、社長は説明する。 「経営は、頭を使う。膨大な懸案を瞬時に予測し、決断しなくてはいけないからね。迷っていたら取り溢してしまう。だけど、伴侶が加われば、考える頭が二つになって、労力は半分になる。仮に篠原くんが加わると、相乗効果は何倍にもなる」 「社長の奥様も、結婚してから猛勉強されたって聞きました」 「そうなんですか?」 「そうなんだ。家内は本当に努力してくれる。感謝しかない。全く知識がない状態で僕のところに来てくれたからね?関わらなくても良かったんだよ、彼女が傍にいてくれさえすれば。だけど彼女は、僕の助けになりたいって言って、色々勉強して、今では独学で取得できる資格は、ほぼ取り終えたよ」 「…すごい」 「うん。今では現場にも出たりしてる。だからね?この生業で生きて行くのなら、伴侶はよく考えた方がいい。藍沢くんは、彼女もしくは好きな子はいるの?」 「…はい。地元に」  少しだけ、今の現状が表情に出てしまう。  すると、社長はその機微に気付き、 「そうか…でも、脈は無いみたいだねぇ?」 「…っ」 「あ、やっぱり社長もそう思います?どうやら彼女、付き合ってる人がいるみたいなんです」 「ああ、なるほど。だから焦ってるのか…」 「とりあえず、就職先をさくっと決めて、地元に帰って聞いてみろって話から、社長にご連絡した次第なんです」 「そうかそうか。藍沢くん、君さえ良かったらうちは大歓迎。どうする?」 「………使って頂けるのであれば、願ってもない事ですので、宜しくお願いします」 「良かったね、和真」  とりあえず、和真の就職先は、聡子の仲介であっさりと決まった。 「講義の合間のバイトもいいよ?」 「それも、宜しくお願いします」 「ふふふー」  こうして、和真はさっそく翌週の週末、一泊二日の弾丸帰省を決行した。  帰省する当日、和真の隣には当然のように聡子がいた。 「………で?なんでお前もついてくるんだ?」 「ん?だって、新幹線取れないって言うからさ、取ってあげたんじゃない?」 「……だから」 「さ、ゴーゴー。愛しの想い人、野乃花ちゃんに逢いに行きましょー」  ついてきた聡子を、今更追い返す訳にもいかず、  和真は、渋々聡子を連れて帰省することになった。  そして今回の帰省は、柊二には知らせず、  いきなり帰ることにした和真だった。
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