蜜愛01 絶望

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蜜愛01 絶望

 水瀬野乃花(みなせののか) 18歳  彼女は、ごく普通の家庭に生まれた。  普通のサラリーマンだった、  少し太っちょで、少し厳しい父親と、  笑みの可愛い、野乃花の自慢の母親と、  家族三人の、慎ましい生活。  その家庭で、野乃花はそこそこ箱入り娘として育てられた。  野乃花には、幼馴染がいた。  幼馴染の名前は、  藍沢和真(あいざわかずま) 18歳  野乃花の家の裏手にある家の息子で、  同い年ということもあり、  幼稚園の頃から、ずっと一緒に遊んでいた。  和真の母親は、少し病弱な人で、  和真が幼い時に亡くなっていて、  父親は、和真を男手ひとつで育てていた。  和真の父親の名前は、  藍沢柊二(あいざわしゅうじ) 43歳  亡くなった妻を、今も忘れることができず、  付き合っている女性もなく、再婚もしていなかった。  藍沢親子と、野乃花たち家族。  裏隣り同士ということもあり、  庭越しの付き合いがあった。  一緒に誕生日会をしたり、  一緒に家族旅行に行ったり。  和真にとって、野乃花は初恋の相手で、  野乃花は、和真のことを兄のように慕っていた。  そんなある日、  野乃花の家に事件が起きた。  その日は、野乃花の両親の結婚記念日で、  野乃花は、せっかくの記念日だから、  二人で過ごして欲しいと、両親を送り出した。 「では、野乃花ちゃんは、うちで預かりますから。ゆっくり夫婦水入らずで、過ごして来て下さい」  和真の父親・柊二は、そう言って野乃花を家に招いた。  柊二は、家事も一通り熟す。  晩御飯の準備をしていると、野乃花が、 「おじさん、手伝います」 「いいよ、野乃花ちゃん。座ってて」 「ううん。お母さんから怒られるから」 「そう?じゃあ、お願いするよ」  そう言って、野乃花が横で手伝うけれど、  年季の差なのか、柊二はとても、手際が良かった。  3人で晩御飯を食べていると、  野乃花のスマホが鳴った。  そこに表示されたのは、母親の番号。  早いな?と、野乃花は思ったけど、電話を取った。  だけど、電話の先の相手は、母親ではなかった。 「もしもし、お母さん?」 "もしもし、私、警察の者ですが、ご家族の方ですか?"  野乃花は、思わず耳元からスマホを遠ざけた。  不思議な動きをする野乃花に、柊二が、 「野乃花ちゃん、どうしたの?」 「いえ、母の携帯からだったんですけど、警察だっていう男の人が出てきたんです」 「…………代わろう。貸して」  柊二は、野乃花からスマホを受け取ると、 「もしもし、私、藍沢柊二と言います。この番号は、水瀬さんの番号ですが、そちら様は?」 "…" 「私は、水瀬さんの裏隣の者です。今日は、娘さんをうちでお預かりしています」 "…" 「はい。水瀬野乃花さんは、娘さんです」 "…"  柊二は、そこから表情を変えて、  野乃花の方を向いて、何やら難しい顔をしたのだった。 「…?」  柊二は続ける。 「はい。私が連れていきます。どこに行けばいいですか?」 "…" 「分かりました。すぐに行きます」  そう言って電話を切った。
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