第3章 崩壊

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 由紀は勝手に穴を掘り、みるみる沈んでいく。健治は、予想通りの展開を確認して慎重に言葉を選んだ。「心が風邪を引いたって言えばわかるかな。ずいぶん長いこと患っていてね。俺が親代わりというか、面倒を見ているんだ。そんな状態だからいろいろ諦めることも多い。でも、佐藤さんに会って、違う人生もあるかもなって思ったよ」  健治の話はどこか遠回しで、唐突にプライベートなことを打ち明けた狙いが見えなかったが、由紀は、不安の中にかすかな希望を見い出したような気がした。ただ、健治の苦労を推し量り、安っぽい同情の台詞を吐くべきではないと考えて黙っていた。本音を言えば、いっぱいいっぱいで気の利いた言葉が思い浮かばなかったのだ。  健治がワインをちびりと飲み、由紀の目を見て踏み込んだ。「佐藤さんは詩織とはまるで違う。妹のようには思えないし、思いたくない。迷惑だろうか……」。由紀の鼓動が高鳴る。「迷惑だなんてそんな……むしろうれしいと言うか……」 「ありがとう……。会計を済ませてくるよ」
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