勇者と魔王

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   ◇ ◇ ◇  トパ国の国境沿いにある町で商人グラムと別れ、そこから乗合馬車に乗り換えて数日。サージュとアレクは国境の関所を越え、ようやく竜人族の国シルエルドに入国した。 「これが竜人族の国か」  乗合馬車を下りるなり、サージュは興味深そうに辺りを見渡した。  竜人族の国といっても、見える光景にこれまでと大きな違いがある訳ではない。建ち並ぶ建築物も、そこを賑わす商店や人々の声など町に流れる空気も、自身の国やこれまで見てきたトパ国の町などと変わらない。実に穏やかで良い雰囲気だ。  ただ、一つ違う所といえば、町にいる人々の姿だろう。  町を行き交う人々の多くは、人間族と同じ姿をしている。が、中には角や尾といった視覚的に竜を連想させる身体的特徴を持った人の姿もある。 「おお~。あれが竜人族かぁ~」  人間族だけが暮らすクロイツ国の住人であるアレクにとって、他種族は珍しい存在なのだろう。そんな特徴的な容姿を持つ人々を見て、子供のように目を輝かせている。その横で、サージュは冷静を装い歩いていた。  様々な種族の血が混じる魔族の中には、竜や獣といった種族の血が濃く表面化している者が普通に存在している。ゆえに、この町の人々の姿に何かを感じる要素はアレクほど多くない。それでも、『竜人族』という特定の種族を目の当たりにするのは初めてで、気がつけばアレクと同様に興奮した面持ちで町を眺めていた。 「それにしても、随分と人が多いな」  擦れ違いざまに歩行者とぶつかりそうになったサージュが、ふとぼやく。 「グラムさんが言ってただろ。ここは行商人が集まる場所だって。だからじゃないか」 「そうだが、行商人ではない人も多くないか?」
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