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運命の歯車は止まらない
ヨシタカがカウンターに花を活けていると、マスターが「珍しい花を買ってきたね」と言った。
「はい。売れ残っていて可哀そうに思えて、つい買ってしまいました」
「なんて花?」
「ピンクっぽい赤は石竹、暗めの赤紫は翁草です」
石竹はナデシコの仲間で、翁草はキンポウゲの仲間。どちらも地味な花である。
ミイチャムの名字が竹石なので、何となく気になって石竹を買った時に、隣に置かれていた翁草もついでに買った。
「石竹の花言葉純愛で、翁草の花言葉は裏切りなんですよ。いい取り合わせだと思いませんか?」
「どこで買ったの?」
「歌舞伎町です」
「あそこの花屋は、バラとか胡蝶蘭とか、派手目のものばかり扱っていると思っていた」
「それらは贈り物として人気だから店頭に置いていますけど、見えないところにも置かれているんですよ。それでマスター、あそこの店員さんから面白い話を聞きました」
「面白い話? 気になるね」
「翁草を大量に買っていった客がいたそうですよ」
「この地味な花を?」
マスターから、思わず本音が零れる。
「でもまあ、そういうものは人それぞれか。他人がとやかく言うものではないな」
マスターは自分に言い聞かせるように言った。
「何に使ったんでしょうね?」
「そりゃあ、自分の部屋に飾るんだろう。他人に贈るとか、いわんや女性を口説くのに使う花じゃない。それを贈ったら嫌われるよ」
「そうですよね」
笑いながら話していると、九十九が入ってきた。彼の後ろには黒スーツで男装した女性がいて、ミイチャムの霊もちゃんと一緒だ。
ヨシタカから見ると三名様だが、マスターから見ると二名様だ。
「お待ちしておりました。ご足労いただきありがとうございます」
「今夜は奢ってくれるって話だよな?」
「はい。一杯だけで心苦しいですが」
「こっちはマネージャー。連れて来いって言うから」
女性が軽く会釈する。
彼らを呼び出したのは、ヨシタカだった。
「マネージャーの飛鳥紫弘と申します」
「お忙しいところ恐縮です」
彼女は、九十九がライブ会場で襲われた時に、彼の体を支えて逃げた人だ。
二人は、カウンター席に並んで座った。その時に翁草が目に入ったはずだが、わざとらしく横を向いた。
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