運命の歯車は止まらない

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「それでここまで呼び出して、何の用だ?」 「理由は後程ご説明します。その前に、何をお飲みになりますか?」 「俺はシャンパン」  マネージャーは、恐縮しながら言った。 「私はグレープフルーツジュースでお願いします」 「遠慮なさらないでいいですよ」 「職務中ですので、アルコールは控えています」  九十九は呆れた。 「今夜はもう業務終了! 仕事を忘れていいんだぞ」 「そんなわけにはいきません。九十九さんを家に送り届けるまでが仕事です」  マネージャーが毅然と反論する。  九十九は、髪を搔き上げて気取りながらぼやいた。 「俺、小学生かよ」 「九十九さんの身に何かあったら、対処しなければなりませんから」  あの事件によって、マネージャーは警戒を強めている。  そのニュースはテレビでも報じていた。掛けられそうになったのは塩酸で、犯人の名前は土岐(とき)英枝(はなえ)ということも分かっている。 「事件についてニュースで観ましたが、大変でしたね。ご無事で何よりでした」  ヨシタカは現場で一部始終を見ていたが、ニュースで知ったかのように振る舞った。 「犯人は、あの場で捕まったから大丈夫だ」 「すぐ釈放されるに決まっています」 「怖い事言わないでくれよ。おちおち出歩く事も出来なくなるだろ」 「あの人だけではありません。暴力が連鎖することもあります」  こうして守ってくれるマネージャーがいることは、九十九にとってとても幸運なことである。  シャンパングラスを傾けながら、九十九はヨシタカに訊いた。 「で、なんで俺とマネージャーを呼んだんだ?」 「ミイチャムのことです」  九十九とマネージャーの表情がこわばった。  ミイチャムは、黙って九十九を見ている。 「ああ、あれね。何か分かった?」 「ええ。とっても重要なことが分かりました」 「重要なこと?」 「ミイチャムは、自殺じゃありませんでした。それをいち早くお二人に伝えたくて、および立てしたんです」  九十九の顔が引きつる。それから、虚勢を張るように目力を込めてヨシタカを見据え、右腕をカウンターに乗せて身を乗り出した。 「どうして、そう言い切れるんだ?」 「その説明をする前に、霊視占いをしませんか?」 「今?」 「マネージャーさんはまだでしたから。いかがですか?」 「どうする? よく当たるって評判ではあるけど」 「何が占えるんですか?」 「お二人の未来なんて、どうでしょうか?」  九十九とマネージャーは、お互いに顔を見合わせた。 「私たち、そういう関係じゃありません。単なるタレントとマネージャーです」 「それも含めて、まるっと視てみましょう」 「……」  二人共黙った。多少興味はあるようだ。 「じゃ、始めますね」  ヨシタカは、霊視を始めた。
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