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「あなたは一体……?」
「カケルくんには、こう説明した方が早いですね。私は、先遣隊の子孫です」
船団が起源星に到達する少し前に、一部の学者が先行して調査を行った。
竜の棲む星になっているというのも、彼ら先行部隊の調査報告から分かったことだ。
その後、先行部隊との連絡は途切れ、船団は起源星への降下着陸を無期限延期することにした。
「え? 先遣隊なら、全滅したはずじゃ。どうして連絡を取らなかったんですか?」
カケルは、目の前の王女を名乗る少女を見つめ、混乱して問いかける。
すると彼女は笑みを消し、カケルを見つめて言う。
「それでは、私も問い返しましょう。カケルくん、あなたは何故一人きりで、エファランにやって来たのですか? あなたは本来、守られてしかるべき立場でしょう」
「っつ」
「おそらく、そういうことです」
リリーナは言葉を濁したが、カケルは続きが分かった。
司書家は一枚岩ではなく、故郷の船団の中でも意見が分かれているのは、知っている。先行部隊は何かの思惑に邪魔をされ、本隊と連絡が取れないまま、現地の民と混ざってしまったのだろう。
そして、後継者であるカケルが逃げださなければならないほど、今の司書家は腐敗している。
「……まったく、話が分からないんですけど?!!」
イヴが憤慨して割って入った。
王女とカケルの会話は、背景を知らない者からすれば、意味が分からない。
もっともな意見に、リリーナはふんわりと笑む。
「では、イヴやオルタナにも分かるように説明しましょう。カケルくんにも、話さなければならないことがありますし、それにも説明が必要です」
立ち話もなんなので、と言われて、カケル達はソファーに腰掛ける。
立っているのは、リリーナの護衛だけだ。
「納得できる説明をするには、少し時をさかのぼらなければなりません。イヴ、オルタナも、この世界が星の竜を起こしたことで一度滅びたことを知っていますね?」
例のお伽噺だ。
太古の昔、姓名が誕生する前の地球に墜ちてきた一頭の竜。
竜の血液から生命が誕生したと、エファランの伝説は語る。
星の竜は傷を癒すため、星の内部で眠りについた。
そうして何千年、何万年の時が経った。人間が高度な文明を発達させた結果、地を深く掘り起こし、星の竜を目覚めさせてしまったのだ。
文明は、一度滅びた。
「その滅びる前に、人間達は空に向けて船を飛ばしていました。ごく一部の人間が難を逃れていたのです。それが、カケルくんの先祖です」
リリーナは、ズバッと簡潔に、カケルの出自を説明してくれた。
「そうですね?」
「うん」
確認されて、カケルは頷く。
イヴとオルタナの視線が横顔に突き刺さって痛いほどだ。
「星の竜の災厄で滅びの時を迎えた人間達は、その空に旅立った同胞がいたことを思いだしたのです。自分達の末期の記録を看取ってくれるとしたら、かつて別れた兄弟たる、彼らしかいないと。この星には、カケルくんの一族しか解けない記録がいくつも遺されています」
「ちょ、待って。なんで俺の一族限定?」
「本気で言っていますか? カケルくんは、カケルくんの一族、司書家は記録の守り手ではありませんか」
リリーナに指摘され、カケルは今さらながら、自分の一族の特殊性を思い知った。
歴史の守り手と宣い、あらゆるデータの管理を独占する名家。今まで汚い面ばかり見てきたせいで、怪しい家だとばかり思っていたが、誇張でも何でもなく役目を持っている一族だったとしたら。
「俺は、司書家じゃないよ……そこから逃げてきた」
「いいえ。あなたは否定しても、司書家の関係者であることは明らかです。あの機械たちを問答無用で停止できる権限を持っているのは、司書家でも限られた者だけですから」
リリーナの言葉を聞きながら、カケルは片手で顔を覆い、溜め息を吐く。
過去からは逃れられない。
世話係リードが言っていた通りだった。この星の遺跡に、司書家に向けての記録が残されているなら、それは破滅を回避する何らかの手段を含んでいる可能性が否めない。
未来に辿り着く手段は、いつだって過去の中にしか存在しないのだから。
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