サーシャの日常

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サーシャの日常

放課後の図書室は、席が半分ほど埋まっていた。 勉強熱心な生徒が多いのだろう。サーシャは定期的に図書室に通っているが、閑古鳥が鳴いている状態は稀だ。 特に試験前でもない平日の図書室。今日もそれなりの人数が図書室に来ている。 サーシャはまっすぐに窓際の席を目指す。お目当ての生徒を見つけると、小声で話しかけた。 「フィアナさん、お待たせしました」 「こんにちは、ルゥさん」 顔の半分を覆う勢いの大きな眼鏡が特徴的な彼女は、フィアナ・エネット。 レンズが分厚過ぎて素顔はよくわからないが、とても真面目な上に気遣いのできる素敵な女性だ。 知識も豊富で、話していて楽しい。 彼女のトレードマークの長い三つ編みは、よく見るときっちりと編み込まれていて、手先が器用だという印象を受ける。 フィアナとサーシャは、本の貸し借りをする仲だった。 サーシャ・ルゥは、相変わらず学生と売店の店員の二足の草鞋を履いている。 魔獣に懐かれるという稀有な才能の持ち主ではあるが、魔獣がほとんどいないため、その能力は授業時に発揮される程度。 それ以外だと、レイヴンが自習で使っている魔獣の世話をする時くらいしか能力の使いどころがない。だが、今は学生の身。存分に学校生活を楽しんでいるところだ。 そんな彼女は、フィアナが貸してくれる少女向け小説にハマっていた。 今日もその小説の続編を貸してくれると言うので、こうして図書室に受け取りに来たのである。 サーシャがハマっているのは、「聖なる乙女のラブソング」という、聖女に選ばれた少女と、少女の片思いの相手である貴公子との恋愛ストーリー。 ただ、恋愛というものがいまいちわからないサーシャは、はっきり言って主人公の恋愛は心底どうでも良かった。 それでもこの小説を読んでいるのは、主人公のライバルキャラクターの存在が大きい。 「聖なる乙女のラブソング」で、主人公である少女をいじめる悪役として登場する、エステラ。 高飛車な貴族の令嬢で、主人公に無理難題を押し付けたり、悪口を言って泣かせたり、とにかくひどい性格だ。 だが、サーシャはこのキャラクターがお気に入りだった。
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