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六本木4
珍しくタクシーが拾えたので乗り込んだ。これで今日もらったチップは消える。それでもかまわなかった。早く帰って眠りたかった。そして早く目を覚まして、友人にメッセージを返したかった。たとえパーティーのお飾りでも、私がダンサーとして最後を飾るには良い機会だと思った。
合成皮革のシートに身を沈めると、私は改めてスマホの画面に映ったメッセージを読み返した。たしか昔に同棲をはじめたと噂に聞いた。その彼女が会社の役員だなんて。夢破れた東京から帰る花道を、成功した古い友人が作ってくれたようだった。
「不思議なもんだな。残酷。かな?」
なにかが吹っ切れた気がして、自分の口角が上がったのがわかった。東京タワーを囲む街灯と街路樹が流れてゆく窓ガラス。そこに映った自分の笑顔に問いかける。その答えに迷いはなかった。
私は実家に帰るため、パーティー当日の夜行バスを検索した。
〈チャプター六本木〉
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