ふるふる・ベイビー!

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ふるふる・ベイビー!

「ほあっちゃああ!」  杖を一閃。気合を一緒に唱えれば、空中に花冠が出現する。  黄色、ピンク、オレンジ、紫。色とりどりの花で編み込まれた花冠は実に美しく、そしてかぐわしい香りがした。私はやった!と思わず声を上げることになる。 「やったああああああ!やっとやっと、花冠出せるようになった!」 「おめでとう妃花(ひめか)!かなり進歩したわね!」  ぱさり、と部屋の床に落ちる花冠を見て、ぱちぱちと拍手をしてくれる母。彼女の手にも、私と同じ木の棒で作られた杖が握られている。  私達は魔法使い。この現代日本で、こっそりと身分を隠して生きている魔女だ。お父さんも魔術師、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんも魔法の関係者。我らが高園(たかぞの)家は、百十五代も続く魔法使いの家系なのである。  もちろん私達が魔法使いだなんてことは、私が通う小学校のみんなには内緒。先生にだって内緒。私達魔女は有事の際、影から国を守るために魔法を受け継いできた存在なのである。遠い遠い昔、中世の頃、恐ろしい魔女狩りからこの遠い島国に逃げ延びて来たのが高園家の先祖とされている。そんな私達を、この国のとあるお殿様が日本人に偽装して守ってくれたのが始まりだったという。  以来、我が一族は日本という国そのものに恩義があり、国を守るために仕えてきたのである。かの江戸幕府だって、我が高園家が忍者たちと一緒に陰でお守りしてきたというのだから凄い話だ。  私、高園妃花(たかぞのひめか)はヨーロッパにいた頃から数えて、高園家の百十六代目にあたる。  まだ小学生だが、お母さんやお父さんから魔法を習って、立派な魔女になるため修行をしている最中というわけだ。まあ――あまり才能に恵まれた方でなかったため、空中から花冠を出すだけでも一苦労だったわけだが。 「お疲れ様、妃花」  此処は、家の地下にある魔法練習場。学校から帰ってきたら、私は毎日ここで母か父に稽古をつけてもらっているのだった。どちらもいない時は自主練である。なんせ我が家は共働き。有事の際は魔女として活躍する二人も、普段は一般人として別の仕事をしていなければいけないからだ。父の表向きの仕事は銀行員、母はスーパーでパートをしている。 「貴女はとても頑張っているわ。でも、まだ足らないわね」  母は言いながら、ひょい、と花冠を拾い上げた。 「ほら。この花冠、花の色がバラバラでしょう?あたしは、黄色い花冠を出せと言ったはずよ」 「う、ぐぐぐ……」 「まだまだ微調整は苦手のようね。……これが花冠だからまだいいけれど、人を治療する魔法や、敵と戦う魔法だったらどうなるのかよく考えてごらんなさい?細かなコントロールがきかなければ、他人の命に関わることになるわ。わかるでしょう?」 「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ」  魔法の道は、なかなかに険しい。幼稚園の時から修行してもらっているのに、まだ花冠で躓いているなんて。私はがっくりと肩を落とす他なかったのだった。
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