パコ

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 下校中、雨音に混ざって、くぅんと動物の鳴き声らしきものが聞こえてきた。  あたりを見渡すと、道端に雨で濡れた小さなダンボール箱が置いてあった。箱の側面には、『拾ってください。』と太いマジックで書かれている。  もしかしたら、犬や猫かもしれない。  僕はすぐに駆け寄り、軽く閉じられたその箱に持っていた黄色い傘を差してやった。  中からは、さっきと似た弱々しい鳴き声が聞こえてくる。けれど、いざ箱を開けてみると中身は空っぽだった。先に誰かが拾っていったのだろうか。それにしても、たしかに鳴き声は聞こえたはずなのに。  ふたたび、箱から鳴き声が聞こえてきた。と同時に、閉まる箱の口がもごもごと小さく動いているのが分かった。  まさか、さっきからこの箱自体が鳴いているんじゃないか──。  そう考えると僕は妙に納得して、その可哀想な箱を両手で抱えて家まで走った。 「ただいまー」  雨の日に学校から帰ると、ママはいつも玄関まで出迎えてくれる。 「おかえり……って、あんたどうしてそんなビショ濡れなの。ちゃんと傘を持っていったはずでしょう」  ママは僕が抱えている箱に気づいてつづける。 「あら、もしかして何か拾ってきたんでしょ。ウチはペット禁止って何度も言ってきたわよね。元の場所に戻してきなさい」 「違うんだってば」  僕は慌てて箱の中身を見せた。 「ほら、よく見てよ」 「まあ、工作か何かに使うダンボール箱ってわけね。それならいいけど、部屋を汚しちゃだめよ」 「はーい」  それから僕はその箱をパコと名付け、自分の部屋で世話をしてやることにした。  パコは濡れた身が乾いて温かさを取り戻すと、だんだんと元気よく鳴くようになり、床の上をめいっぱい駆け回るようにもなった。  いよいよ夕飯時になると、僕は食卓に並んだおかずのエビフライをこっそりとズボンのポケットに入れて自分の部屋へ持ち帰った。そして、ぼけっと開いたパコの口にそれを入れてやった。  エサが合っているのか一瞬だけ不安になったけれど、パコはその後すぐに身を折り畳んですやすやと眠っていたし、朝になると中のエビフライが消化されてなくなっていたから平気だったのだろう。
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