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──今は昔、月に帰りし姫君ありけり──
そうでございます。私が、月に帰ったかぐや姫でございます。
え? 月に帰ったはずなのに、何故このようなところで殿方と共に暮らしているのかと?
そうでございますね。少し長い話になりますが、これも何かのご縁。私と彼からお話いたしましょう。彼は天水と申します。私の乳兄妹になります。
私、かぐや姫は天上界の王の娘という身でありながら、罪を犯したために一時的に下界に下ろされておりました。残念ながら、下界での暮らしはよく覚えておりません。
しかし、私は下界での暮らしをそれなりに気に入っていたのでしょう。月から迎えが来た際、名残惜しいと侍女頭の香蘭を待たせたそうなのです。
でも、香蘭が持ってきた天女の羽衣を着たので、地上への気持ちも記憶もなくなってしまいました。凪いだように静かな心持ちで月の都へと帰ったのでございます。
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