アイドル

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大好きなアイドル!愛してるアイドル!私の憧れ!私の希望!私の光!地下アイドルから普通に売れるまでずっと応援してきた! 信用できるアイドル! そう思っていたのに・・・・ 雑誌に乗る熱愛報道、 SNSに流れてたという言い逃れ出来ない路上キスシーンの激写写真 相手はアイドルの幼馴染だとか、 許せない!許せないよ!裏切りだ!私達に好きだよと囁く声は嘘で幼馴染だけを愛してたんだ!酷い!酷いよ!あんなに応援してたのに!握手会で私に会えて嬉しいって、また会おうねって言ったのも嘘に感じちゃう、何も信じれなくなる、 「恋愛なんてしないよ、今はみんなが恋人だよ」って言ってたのに! テレビであなたは謝罪会見を厳しい顔でしている 「ファンの皆さんを騙していたことは申し訳ありませんでした、ファンの皆様の事もとても大事に思っています、でも皆様と同じくらい彼女も大事なんです、今、皆様の信用を失っていますがグループごと事務所を抜けてバンドグループとして活動していきます。僕に失望し、もうファンを辞めるという方もいるかも知れません、ですが僕はもうこれ以上嘘はつけません、気持ちを変えることはできません!ファンの皆様と同じくらい、それでいて違う形で僕は彼女を愛してます、この思いを理解していただきたいとわがままですが思っております、メンバーも理解してくれて、僕と一緒にアイドルからバンドに転身してくれると言ってくれています。ファンの皆様を騙していた事への罪は事務所を辞め、1年間の活動自粛で反省し1年後の活動で誠意を示せればと思っております、その間メンバーはバンドとして活動してくれますので応援してあげて欲しいです。最後に本当に騙していて申し訳ありませんでした。」 「高佐柳(たかさ やなぎ)さんの、謝罪は以上となります、これから10分間の質問時間を……」 もう司会が何を言っているのか、記者の質問も柳君の代わりに答えるマネージャーや質問されるほかメンバー達の声も聞こえない 地下アイドル時代、 地下アイドルが流行っているからと色々回ってみた、でも私の琴線に触れる人は居なかった。でもあの日、バドアイドルとしてツインボーカルでステージに立っている柳君を見た時、世界がひっくり返った気がした。 数少ないお客さんのはずなのにその倍居るような熱気が満ちていた。メンバーの楽器演奏も演奏しない柳君と相方の踊りも歌も何もかも別格で、後に踊りは相方が考えていて、曲と歌は、柳君が作ってるって知って驚いたし感動した。 なんてすごい人なんだろうて、 もちろん、私の感動は他の人にも伝達していき、まるで静かな水溜りに落ちた一滴の水が波紋を広げ水が湧き出て池に、湖に、そして川へ、海へと広がるように人気は瞬く間に広がっていった。 私は水溜りの頃から応援してた。5~6人のライブ会場、帰る時の握手会、ライブで疲れてるはずなのに爽やかな笑顔が崩れたことなど一度もなかった。いや、一度見た事がある、特に仲良く話してるファンの子が居たように思う、その子にだけは笑顔が違った?まさかあの子が? 活発そうで柳くんファンにしては珍しいタイプではあった。 そんな前から? 幼馴染と言うのだ、それこそアイドルを始める前からだったんだろう ずっと騙されてたんだ 私はずっと、最初から ボロボロと涙が落ちる、大切な人を喪う感覚 私の高佐柳はもう居ないんだ 「ファンを、騙しといて自粛するから許してくださいとかファンが可哀想だとは思いませんか?別れるのが普通でしょ」 聞こえてきた記者の言葉に賛同する、そして画面を見ると今まで見てきた中で一番意思が強くてカッコイイ顔で彼は言った。 「一人の女性を正しく愛せなくて、ファンも愛せるとは思いません、僕は皆様を僕の力になってくれる素晴らしい友人として愛しています、わがままですが、彼女の支えもファンの皆様からの支えも僕の体の一部です、僕が幸せになることで皆様にも最高の曲を提供でき幸せを作ってあげられていたと信じてます、だって彼女といる時もみんなと会えるライブも同じくらい幸せだから」 あぁあの曲もこの曲もどれもこれも、彼女を思って書いたのね なんだかストンと積み木が型に嵌まった感覚 誰かを思ったような歌詞はファンを思ってじゃなくて彼女を・・・・・そう思うとまた辛くなった。恨めしくて、でも憎めなくて、だって画面で笑う彼は本当に幸せそうで優しい笑顔をしているから、でもそれが特定の人に向けられてる、わからない、彼をまだ好きな自分もいる、でも裏切られて悔しくて悲しくて憎くて、でもそれ以上に愛おしくて 私 私 「私どうしたらいいの?」 ブワッと1陣の風が吹く 驚いて目を閉じ、開けた時には私は木の橋の上にいる、水面から少し上がっただけのその木の橋の道は蓮の湖の中を走っている、その先を見れば大きなそれは大きな蓮の森がある、そう、森というのにふさわしいほど巨大な蓮の葉や花が木のように太い茎を伸ばして咲いている 私はどこ行けばいいのかもわからない突然飛ばされたここで、どうしようと悩みながらも何かわかるかもしれないと、森の方へ歩いていった。 森に入りしばらく歩いていると1つの蓮の葉の上に白い髪の少年が、その年齢に似合わないほど分厚い本を開いて読んでいる。 和服ではあるが洋装の本がミスマッチでそれを読んでいる少年が美しい事と突然のこの状況に人の形だが本当に人かと怪しんで見ていると目が合う 「おや、迷い鯉か、ここまで来るのは疲れただろう、そこに座るといい」 少年と言うには大人びた発言の後に1つの蓮の葉が生きているように動き私が座りやすいように降りてくるものだから驚いてしまう 「怖がるな、ただの蓮の葉だよ」 ただの蓮の葉はこんなに大きくないし何より動くことはない、だが、「さあ、はやく」と促されるので恐る恐る座ると、蓮の葉は少年の前に位置を動かし止まる 美しい人ならざるものに見える少年は私が前に来ると本を閉じて脇に置き、パンパンと手を叩くと湯呑みと急須が出てきた。 「お姉さんは泣きはらしたような顔をしているね、とりあえずこのお茶を飲むといいよ、緑茶は飲めるかい?」 お姉さんと言う声は確かに少年なのだが話し方がまるで自分より年上の男性のようで違和感を感じてしまう、「飲めます」と敬語になってしまうのも仕方ないだろう 「さて、どうして泣いてたの?お姉さん」 あぁ、今のは少年ぽいなんて少し落ち着いて、話すかどうか迷いながら、でもこの気持ちを誰かに聞いて欲しいという思いもあり口を動かす 「なるほど、アイドルに裏切られたか」 私は泣きすぎて落ち着くために入れてくれたお茶を飲む、いつの間にか真ん中に現れた果托(かたく、蓮の雌しべが実になった花びらの落ちた状態)が机のように伸びていて、そこに急須と湯呑みが置かれている、本当に机のように使っている 「私悔しくて」 グスンと鼻を触っていれば散った花びらだろうか、普通のサイズの蓮の葉が花びら載せて伸びてきて、これでふけと言っているよう 私は綺麗な花びらを1枚とってなんだかもったいない気もしながら鼻を拭く 「じゃあ、彼を嫌うのかい?」 少年に聞かれて考える、とても好きな人、愛してると言ってもいい人、でもその人は私を騙していた。でも顔を見ると憎いような気もするけど今まで頑張ってきた彼を見てきた。アンチもいた。メンバーがタバコをして炎上しても負けないように頑張ってた。 いつも応援してた。大好きな人、強いと思っていたけど彼の影にはずっと・・・・・ 「大好きだからこそ嫌い、嘘をついてる柳君なんて、でもまだ好きな気持ちもある」 「じゃあ応援するのかい?」 応援・・・できるだろうか、こんなに私は傷付いた。でも彼は私達より彼女を選んだ。 昔一度だけ聞いたことがある、歌手になりたかった。けどスカウトされて作曲もできるアイドルとしてデビューしたんだと 歌える事に変わりは無いからとても幸せだと言っていたけど、恋愛できなくて辛かったのだろうか、いつも応援しに来ていたあの女、どんなに優越感に浸っていただろう、素晴らしい彼氏である人気者の高佐柳の彼女と言う地位で、ただのファンの私達をきっと笑っていただろう 浅ましい考えかもしれない、でもそう思ってしまう、愛した人を奪っていった女だから、 あんなに幸せな優しい顔をきっとずっと見てきたあの女 あぁそうだ、私は羨ましいんだあの女を害したいほど、嘘つき!と柳君に詰め寄りたいほど、私は 「本当に愛してたのに」 ポロポロと涙が流れるたびに花びらで拭く あぁこんなに憎いから私はもう彼を純粋に応援できない、浮気された彼女のような感情、無理だ 私に彼女と幸せな彼を応援することなんて 「無理だよ彼を応援なんてできない」 「君は君の理想の彼が好きだったんだね」 「え?」 「本当の彼の幸せより、君を愛してる彼になって欲しかった、たとえ彼が不幸になっても、そういう事だろ?」 グサッと何かが刺さる感覚 私は彼の幸せを祝えない、たとえ彼女と別れてる不幸になっても、アイドルとして今までのように最高の歌を 今までのように? 今までの幸せな曲や私を助けた曲、感動を届け続けた彼の曲は彼女との幸せがあったから なら彼が不幸になったら、もうあんな曲は書けなくなるの?でも私達が応援すれば幸せに 「きっと、ファンの応援で元気が出たよとまた嘘をついて無理やり曲を書くのだろうな、しかも今までと違う嘘の感情の歌詞を」 私は果托を叩く 「そんなはずない!だってファンの事だって愛してるんだもん!」 私の言葉に少年は冷めた目で言う 「お前は彼に本当に身近で支えてくれる愛した人と引き離されてお前が愛した人を失った感覚と同じくらい、いやそれ以上のショックをファンによって受けた彼にファンを今まで通り愛して感謝しろというのか?」 グサッと言葉が刺さる 「裏切られた、盗られたと遠くから眺めてたお前も泣くほどショックなのに、身近で支えてくれる愛しい人を捨てさせられ、どれだけショックだと思う?なのにその原因を愛せと?忘れているようだな、高佐柳と言うアイドルも愛する人のいる一人の人だぞ」 グサッとまた刺された感覚 そう、彼も一人の人間、 私が彼を奪った女を憎むように、彼女をなくすことになった彼は、私達を今までのように愛してくれる? 今、私でさえこんなにショックを受けているのに? 彼に、彼の幸せを捨てて、私を愛せと 私は言っているのか それは なんて、なんて 身勝手なんだろう 今度はツーと静かに涙が流れる あぁ、私は彼の幸せを憎み、彼の幸せを捨てて私を幸せにしろと騒いでいたのだ、 私が居るんだから幸せでしょと言って彼を苦しめようとしていたのか 「ふ、うぇ、うううう」 悔しさは消えない、私だって人気になる前から応援してたと言う自負はあるけど幼馴染は彼がスカウトされる前から、それこそ幼い時から彼を応援していたのだろう、支えていたのだろう そんなの勝てないじゃん、 あんなに優しくて幸せそうな顔を引き出せる彼女が羨ましい、でも彼にはずっとあんなふうに笑っていて欲しい、それを引き出せるのは彼女なんだ、彼女、なんだよね 私が何とか納得しようとしているとポンポンといつの間にか隣に来ていた少年が頭を撫でる 「まぁ、彼も恋愛ご法度なアイドルと言う職業を選んだのも悪いがな、歌手として出ていればまだ反発も少なかったろうになぁ」 「2年で売れなきゃやめて歌手するつもりだったんだって」 泣きながら言えば、あー、と少年の声 「才能はあったんだもんなぁ、近道せず路上デビー頑張ればよかったなぁ」 「でも、路上じゃ出会わなかったかもぉメンバーも集まらなかったかもぉ〜」 「うんうん、アイドルやっててくれて感謝だねぇ」 「う〜ん〜うぅぅぅ〜」 ボロボロと涙を流す、大好きなアイドルの謹慎と熱愛報道、ショックだった。 けどやっぱり私は彼が好きだ、これから彼の曲を前のようには聞けないかもしれない、けど彼の産む歌詞や音が 私は大っっっ好きなんだ 「まだ、気持ちの整理つかないし、やっぱり悔しいし悲しいけど、心が落ち着いたらまた応援したい」 「そうか、頑張れ」 少年にポンポンとまた頭を撫でられるとブワッとまた1陣の風が吹いて私は自分の部屋にいた。 まだテレビは彼の記者会見をしている。 記者達の厳しい質問に真摯に答えてる。 これから彼はファンとかそれに便乗するアンチの心無い言葉に傷付けられるだろう、なら私は彼の味方になろう だって彼女を愛してるからこその彼に、私は惚れてたんだって・・・・気づいたから・・・
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