エピソード・3 💎 ワルキューレの騎行

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 「許さん」  「アジトは捨てるぞ。地下室に閉じ込めた捕虜は生きたまま、屋敷と一緒に火あぶりの刑だ。縛り上げて焼き殺せ」  潜入捜査などという姑息な手段を使った警察への見せしめに、捕虜を生きたまま屋敷と一緒に燃やせと。  ハッキリと命令したのだ。  ダークマターがアジトに火を放てと命令したのは、警察無線を傍受した直後のことで。アジトを見張っていた岩城の部下が気が付いた時には、屋敷は激しい炎に包まれていた。  その一報が岩城に入る。  「あの野郎ッ、やりやがった」、後手に回った後悔に、唇をかみしめた。  中年男を地下室に閉じ込めたまま、ダークマターは屋敷に火を放ったのだと思うと、自分の判断の甘さが許せない。  「岩城。予定を変更するぞ」、次の瞬間、ジャン=ルイが計画変更を言い渡した。  恐らくダークマターは、誘拐してきた絹子を連れ込む予定だった山荘も捨てるだろう。  間もなく、山荘は炎上するはずだ。  その隙をつき、山荘にいるダークマターと部下たちは逃走を図るだろう。ダークマターの本体は、アラブの砂漠でテロ組織狩りをしてきた危ない奴らだ。  血を見ることにも慣れっこの、凶悪犯!  このままダークマターと一味を見失えば、誘拐された北野絹子はそうとう危険な状況に陥る。  「日本の警察になど、任せては置けるものか」、ブツッとつぶやいた。  すでに絹子は十分に、ダークマターを誘き出すオトリの役目を果たしてくれた。見殺しにしては、ラ・フォーレ男爵家の貴族の誇りに傷がつく。  「卑怯者は許さん」、これまでジャン=ルイの中で静かに眠っていた、ご先祖様から受け継いだ好戦的な騎士の血が見事に覚醒。  血管の中を駆け巡った。  別ルートをたどって来たお陰で、もうすぐダークマターの一味が乗る偽の覆面パトカーの正面に出る。  行く手をふさぎ、まずはアイツらを捕まえて北野絹子を奪還するのだ。  ジャン=ルイの最初の計画では。  わき道に隠れたジャン=ルイと特殊班は、暗闇の中で山荘にいるダークマターの一味と詐欺集団の動きを静観。  警察が山荘を取り囲むまで、じっと動かずに見守る積もりだった。  山荘から北野絹子を助け出す栄誉は警察に譲り、ダークマターが警察の包囲網を破って逃げ出したところを、情け容赦なく一網打尽にする予定だったのだ。  しかも岩城に指揮を任せている特殊班のメンバーは、ジャン=ルイがフランスの外人部隊から引き付いてきた戦闘経験が豊富な傭兵ばかり。  ダークマターには、逃げる余地など与えない。
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