エピソード・3 💎 ワルキューレの騎行

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 しかもコメンテーターが、「命を取られたわけじゃなし、窃盗と言ってもねぇ。ドラマを見るような見事な手際だ」、などと褒め上げるものだから。  マスコミに踊らされた一般市民の間にも、詐欺集団がやったサスペンスもどきの事件を肯定する世論が生まれた。  父親が詐欺集団に奪われた高額な宝石類のせいで多額の負債を背負い、そのために自殺に追い込まれても。  「心が弱いから死んだのではないか」と、冷たい報道が流れるばかりで。やがて警察はダークマター一味を追い詰めること無く、いつの間にか捜査を縮小していた。  「それが警察組織って言うモノさ」  岩城が吐き捨てるようにジャン=ルイに言った言葉を要約すると、そう言う事になる。  「北野絹子は銀座のオンナで、富豪の令嬢でも、政治家先生の令嬢でもない。水商売の女だ」という一事が。  警察官僚どもの頭の中では、そんな女は「助ける価値なし」という文字に変換される。  そう言ったのだ。  「伊達刑事部長の思惑もな、どうせ北野絹子は使い捨てにするくらいのものだろうぜ」、詰まらなさそうにそう言ったのだ。  生命が脅かされるならともかく、水商売のオンナがレイプされそうだなんて話に、警視庁の刑事部長が本気で乗るわけがない。  「水商売のオンナがレイプねぇ。いつものパトロン相手のセックスと、どう違うと言うのかね」、伊達刑事部長の声がどこかから聞こえてきそうだ。  それに、と。警鐘(けいしょう)を鳴らす。  「もしも潜入させてる中年男の身許がバレたら、アイツはその場で殺される」  「今だってな。傍受される可能性が高い警察無線を使って、ペラペラと情報を垂れ流しているじゃないか」、警察の無防備さを指摘した。  だからジャン=ルイの特殊班は、独自のやり方でダークマターの一味を追う事にしたのだ。  そして・・岩城が危惧した通りの事態が、すでに起こっていた。  岩城が特定した山荘の中では。警察無線を傍受したダークマターが、絹子の帯と黒服の靴を剥ぎ取って捨てるように、偽の覆面パトカーに乗る詐欺集団に指示を出したのだ。  もともとが偽の二台のパトカーに乗せた警官もどきも、彼の部下などではない。SNSで募集したアルバイトの男達にすぎない。  ダークマターの計画に狂いが生じても、警察に捕まったところで何の害も無い、ただのアルバイトを偽物の警官に仕立てたのだ。  言うなれば、金で雇った使い捨ての駒だ。  「姑息な。どこから計画が漏れたんだ」、ダークマターは瞬時に、潜入したスパイが屋敷を探っていたのだと理解した。  可能性は、あの中年男だ。
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