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但し。
「殺すな」と、釘は刺しておいた。
「日本では、どんな凶悪犯も殺しちゃ拙いと、花音が言ってたからな」、不満だが仕方がない。
そうなのだ。さっきまでは確かに、ジャン=ルイもその積もりだった。
だが!
日本警察が思っていたよりもポンコツだったせいで、せっかくの計略が水の泡。このままでは北野絹子の命も、危ない。
(どういう訳かジャン=ルイの脳裏に、傷ついた絹子を見る花音の泣き顔が浮かぶ。なぜかシクッと、心が痛くなった)
「いざという時には、奴らをせん滅する。死体を日本警察の目に触れないように始末すれば、問題はない」
決意が溢れでる。
「行くぞッ」
岩城の合図で。偽の覆面パトカーが登ってくる一本道を、大型ワゴン車で下ってゆき、道をふさいだ。
走行を阻止された偽の覆面パトカーはやむなく停車、後ろから来た軽トラから飛び出してきた田舎のオバサンスタイルと叔父さんルックの刑事が、拳銃を抜いて走り寄る。
偽の覆面パトカーから飛び降りた詐欺集団の一人が、二人の刑事に向かって発砲。乾いた拳銃の発射音が暗い山間に響き渡った。二人の刑事が道の脇に茂った草むらに身を伏せる。
その隙に、スタンガンで気絶させておいた黒服を車の後部座席から引きずり出すと、斜面から投げ落とした。
「ゴミは捨てろ」、それがダークマターからの命令だ。
今回の目的は、北野絹子を痛めつけることにある。ソレが咲姫の望みだ。
両手両足を縛った絹子も引きずり出すと、大きな皮のケースに押し込んだ。キャスター付きの旅行ケースである。
岩城と特殊班が大型ワゴンから飛び出すのと、上空に飛ばしておいたラ・フォーレ財閥所有のドローンの爆発音が響くのが同時だった。
「チッ、何処から狙った?」
岩城の疑問に、直ぐに答えが出た。
頭の上に突然、大型ヘリの爆音が近づいてくきたのだ。ヘリからロープがたれると、詐欺師が二人ががかりで絹子を押し込めた皮のケースに、ロープの先に取り付けられているフックを引っかけた。
頭上のヘリを撃ち落しては、特殊班の命が危ない。
岩城が躊躇った。
その間にも、皮のケースが空中へと釣り上げられていく。
しかもその時を狙っていたかのように、山荘から爆発音が響き渡った。真っ赤な火柱が上がり、山荘がまるでキャンプファイヤーのように燃え上がる。
火薬のにおいが混ざった炎が、真っ暗な夜空を焦がした。
後から追尾してきた警官が呆然と見守るなか、北野絹子が誘拐されていく。
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