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苦々しい表情で片瀬が考え込む。そこへ、彼のPHSが鳴った。
「はい。……え? いや、だけど俺はもう……」
PHSを耳に当て、落ち着きなく周辺をウロウロ歩きはじめる。どうやら困ったことが起きたのだとわかる。
「申し訳ないが、そちらで対処してもらえないか? 俺は行かないと伝えて欲しい」
片瀬は通話を切り、白衣のポケットにしまいながら風花の方を振り向く。
「真夜が病室に数人の男を連れ込んで大騒ぎしているらしい」
「どういうこと?」
「詳細はわからない。ただ、他の患者からナースステーションに苦情が来るほどその男たちと騒いでいるらしく、病棟が対応に困っているそうだ。俺が来れば彼らを帰すと言っているらしい」
おそらく真夜が知り合いの男性たちを面会に来るよう呼びつけたのだろう。
こんなにも自分は大勢の男性から愛されていますよとアピールしているつもりなのだろうか。何がしたいのかよくわからない。そこへ片瀬を呼びつけるとは、いよいよ真夜の行動も歯止めが利かなくなってきているのはわかる。
「行ってきて。他の患者が困っているのなら、医者として注意してきてほしい」
できることなら真夜の思い通りにさせたくはない。けれど、患者に被害が及ぶなら、私情を挟んではいけない。風花は片瀬の背を押した。
「……わかった。行ってくる」
渋々ながらも片瀬が風花の前から去って行く。風花は片瀬の背を見送りながら、ギュっと拳を胸に当てた。
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