わたしの力?

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わたしの力?

「ふんっ! 客人になにかあったらおれのせいになる。ゆえに、せいぜい逃げ回ることだ。これだけ小さければ、小回りだけはきくだろうからな。まともに戦えるわけがないのだ」  ヴィクターは、鼻を鳴らした。 『うわあああああっ! 彼女のこの凛とした表情。めちゃくちゃカッコ可愛い。ああ、彼女を抱きしめて頬ずりしたい。このまま部屋に連れて帰りたい。ダメだダメだ。おれは、なんというやましいことを考えてしまったのだ。そんな変態親父みたいなことをすれば、彼女に軽蔑されてしまう。そんなことより、彼女には戦ってほしくない。傷ついて欲しくない。おれの腕の中なら安全なのに。くそっ! 姉上の気ままに振り回されるしかないのか? まぁたしかに姉上の言う通り、くだらぬ慣習はおれがなくせばいいだけのことなのだが。それなのに、おれにはその勇気がない。しょせんおれは、将軍であって王の器ではないということか? おれは、自分が情けない』 (ヴィクター様……)  彼の「真実の声」は、苦悩に満ちている。  こんなに彼を苦しめている要因はわたしにある。  わたしがここに来なければ、彼を苦しめることはなかったのに。 「うるさいですね」 「居住区域内に陛下の怒鳴り声が響き渡っていますよ」  責任を感じていると、パーシーとチャーリーがこちらに歩いてくるのがヴィクター越しに見えた。 「これ、見て下さい」  彼らは、手に瓶を二本ずつ握っている。 「今年は、天候が良好で各地域で葡萄が豊作でした。良質の葡萄酒が出来るということです。数年先が楽しみですね。とりあえず、各地域から陛下にと葡萄ジュースが送られてきました」 「レディもどうぞ」  彼らの美貌が笑顔で溢れている。  そういえば、彼らは葡萄酒が大好きだけれど、ヴィクターはどうなのだろう。  ヴィクターが葡萄酒を、というよりかどんなお酒も飲んでいるところを見たことがない。  もっとも、いまだに食事さえいっしょにしたことがない。  わたしが見たことがないだけで、自室や食事時に飲んでいるのかもしれない。 「陛下。ついでといってはなんですが、すぐそこの山地の調査ですが、なんと大当たりだったようです。レディのお蔭ですよ」  パーシーの報告に驚いたのはわたしである。  じつは、行進特訓で迷子になってしまった。しかも、尋常ではないほどの迷子に。  つまり、なぜかこの辺りでもだれもよりつかない山地をずんずん歩いてしまったのである。  そのとき、みんなに大迷惑をかけてしまった。もちろん、ヴィクターにも。  みんな、必死に捜しまわってくれた。  そのとき、その迷い込んだ山地でふとなにか予感がした。なにか閃いた気がした。だから、ヴィクターに掘ってみたら、と言ってみた。  そこは、この辺りでも有害なガスが漂っていると言われてだれも立ち入らない地域。しかし、ヴィクターはわたしの言葉に耳を傾け、実行に移してくれた。  パーシーは、その調査結果のことを報告したのだ。  つまり、ルビーが出てきたと。しかも、いま産出している鉱山より質が良くて豊富にあるかもしれないと。 「今年は例年になく気候がよく、葡萄だけでなく様々な農作物が豊作だということです。ルビーのことも含め、もしかしたらレディの力のお蔭かもしれませんね」  チャーリーは、わたしにウインクをした。 「残念ですが、わたしにそのような力はありません。ルビーの件は、たまたまです」  笑うしかない。 「いいえ、サエ。案外、あなたはそういう力を持っているのかもよ。自分で気がついていないだけでね」  寝台の上で胡坐をかいているキャロルは、そう言ってから大きく伸びをした。  その言葉を真に受けたわけではない。  部屋の灯りを消して寝台の上で横になってから、頭と心に彼女の言葉が何度も現れては消え、消えては現れた。
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