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国王、やけっぱちになる
『うわああああああっ! 彼女の部屋だ。いままで彼女の部屋の様子を見たかったのに、見る勇気がなかった。やっと見ることが出来た。おいおい、彼女の部屋はほんとうに彼女らしい清潔でのんびりした感じの部屋ではないか。パーシーとチャーリーにきいていた通りの部屋だ。あぁ部屋の中に入り、しばらくの間彼女と話をしたいなぁ。就寝前のちょっとしたお喋りタイムだ。だが、待てよ。彼女はきっと、おれがこんな時間におしかけてきて気味悪がっているだろうし、迷惑がっているに違いない』
彼の「真実の声」が流れ込んできた。
(いえ、ヴィクター様。ここはもともとあなたが準備してくれた部屋です。というか、清潔というところはわかります。ですが、のんびりした感じの部屋というのはいったいどういう部屋なのでしょうか?)
彼に問わずにはいられない。もちろん、心の中でだけど。
「それで? そんなことの為にわざわざおしかけてきたわけ? そんなに彼女のことが大切なら、いますぐにでも婚儀を執り行い、全国民に発表すればいいでしょう? そうすれば、とりあえずは彼女が狙われるという問題は片付くのだし。彼女の願いについては、それも国王として両公爵家に強く命じれば済む話でしょう? 両公爵家もいまとなってはいがみ合う理由さえわかっていないのだし。そろそろ悪しき慣習をかえていくのもいいんじゃない? 力があれば国王になれる、みたいな話のことだけど。いまどき流行らないわよ。大昔の戦乱の時期ならともかくね。書物でさえそのような成り上がり的な筋書き、読者はよろこばないはずよ。この際、あなたがいっさいをかえてみたら? もちろん、国民に迷惑をかけず、混乱を招かない程度にだけど。まったくもう。あなたって図体と強面のイメージのわりには、気弱なんだから」
キャロルは、一方的にまくしたてた。一方、ヴィクターは黙り込んでいる。
「とはいえ、すぐにすべてをかえられるわけはない。差し当たり、勝負はもうすぐのことだし。バカね、ヴィクター。そんなに怒らないでよ。大丈夫だから。サエは死なない。まぁ、最悪瀕死はあるかもしれないけれど」
「なんだって? 瀕死って、そのようなことが許されるか」
「ヴィクター、だから大丈夫だって。サエのことを信じなさい。それから、わたしのことも。いいわね?」
キャロルは、まるでわたしがここにいないかのようにわたしのことを話している。しかも、どういう根拠か知らないけれど、わたしが大丈夫だとムダに強調している。
(でも、たしかにヴィクターを安心させる為には「大丈夫」を強調するしかないわよね)
そんなことを考えていると、ヴィクターがわたしを見下ろしていることに気がついた。
そのルビー色の瞳がいつもとは違い、穏やかであることに気がついた。
「チビでひ弱な彼女が剣を扱えるとは思えんがな。あの二人は、まがりなりにもレッドグレイブ公爵家の令嬢だ。噂では、家伝の暗殺術を身につけているらしい。その必殺の剣技は、対峙すればおれでさえヤバいものらしい」
(えっ? そうなの? あの二人、そんなにすごい技を持っているの? というか、ヴィクター様。ここでわたしを怖がらせてどうするつもりなのですか?)
怖いことばかり言うヴィクターをツッコんでしまう。もちろん、心の中でだけれども。
「とにかく、姉上。勝負中、彼女が不利になったらおれが止めます。いいですね?」
「好きになさい。だけど、サエはそれをよしとしないわよ。ねぇ、サエ?」
キャロルは苦笑している。
「ヴィクター様、ご心配いただいてありがとうございます。ですが、ヴィクター様。いま、わたしはこれ以上ヴィクター様にご心配いただかなくていいようにがんばっているところなのです。みっともないところを見せない為にも努力を続けますので、どうかあたたかい目で見守って下さい」
彼を見上げ、全力でお願いした。
わたしもあとにはひけない。こうなったら意地でもやり通さないと。
正直なところ、ほとんどやけっぱちになっている。
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