Saints go marching in Tokyo

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 彼女の失踪はある春の日、突然訪れた。SNSのアカウントの削除。投稿用と日常用の両方とも。SNSに投稿した絵をまとめるサービスのアカウント、次いで通話アプリのアカウントの削除。更には何年もログインしていないゲームのアカウントまで削除されている徹底ぶりだった。彼女の存在したありとあらゆる証が全て消え失せ、通信手段の全てが絶たれた。  確かにしばらく通話できていなかったけれど、急にアカウントを消すほどの予兆はなかった、はずだ。確認しようにも彼女のアカウントは削除されていて、履歴を見ることもできない。  友達だと、思っていた。親友だと、思っていた。それは全て一方的な思い込みだったのだろうか?  今やインターネットは生活の一部であり、自分の居場所のひとつだ。少なくとも私にとっては現実(リアル)よりも、よっぽど私の居場所だと思う。それほどの場所を絶って、生きていけるだろうか?  私は暇さえあれば彼女の行方を探し回った。彼女のアカウント名を少しずつ分解して、彼女と思しきアカウントの人がいないか。彼女の推しCPのタグを検索して、新しいアカウントで投稿していないか。別のSNSにアカウントがないか。まるでデジタルストーカーだった。そうして何日も、何ヶ月かおきにそれを繰り返したが、彼女へと辿り着くことはできなかった。  今の彼女に辿り着くことができないならせめて過去の彼女の痕跡を辿ろうと、SNSで私が彼女宛に送ったコメントを検索した。バカみたいな幼稚なコメント。それに彼女は何と返したのだろう。コメントとコメントの間で類推しても、彼女の聖人のような懐の深さが際立つばかりで、彼女の輪郭はぼやけて消えていくばかりだった。  やがて私は、ネット上で彼女を探すことをやめた。他の誰よりも長く関わっていたから、何をしていても彼女のことが脳裏にチラつくが、これだけ探していないとなれば、彼女はきっとインターネット上にはいないのだ。 『待ってる』  彼女はそう言った。だから、私は現実で彼女を探しに行くのだ。それが何年後になっても。たとえ、それが空振りに終わろうとも。  貴女に会いたい。そうでないと、この感情を消化できない。この気持ちを葬らないと、私は前へ進めない。  私は彼女を探す旅に出ることにした。
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