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「うん。あれを自分で作れるようになって、好きな時に食べられたら幸せだなぁと思ったんだ」
やる気に満ち溢れるその姿を見て、思わず吹き出してしまう。去年も先生に会いにきたって言っていたし、実は行動派な人なのかもしれない。
「もちろん、いいですよ」
「本当? 良かった〜。あっ、赤井陽貴です。今更ですがよろしく」
「あっ……加藤真白です。よろしくお願いします」
赤井陽貴さんっていうのか。ずっと知りたかった名前を心の中で何度も唱える。すると不思議と満足感に包まれた。
陽貴は何かに気付いたのか、急に表情がパッと明るくなる。
「真白ちゃん? おぉ、じゃあ俺の"赤"と混ぜたらピンクになるねぇ」
「あぁ、本当ですね。気づかなかった」
ピンクだなんて少し照れ臭い気もしたが、彼に名前を呼ばれたことが嬉しくて、真白の頬はほんのりピンクに染まっていた。
彼に会って名前を聞きたいーーそう思っていたけど、彼に会いたい理由付けだったのかもしれない。
「じゃあ俺がタルトタタンを作れるようになったら、真白ちゃんが一番に食べてね」
この人は、自分の言葉が私をこんなにドキドキさせてるって気付いているのかしら? 彼のほんわかした笑顔が直視できずに、真白は俯いてしまう。
「はい……是非」
おじいちゃんが送ってくれる甘酸っぱいリンゴ。これからは一人じゃなくて、彼と一緒にじっくり炒めてみようかしら。甘くて美味しいタルトタタンが出来上がるような予感がするの。
タルトラタタンーーリズムが心に響き、甘い恋の始まりに胸が躍り始めた。
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