8. 夢の箱

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8. 夢の箱

8.夢の箱  窓から差し込む冷たい光が、白い壁を照らしている。  静かな空間に廊下を行き交う看護師の足音と、カート(ワゴン)の音が響いていた。  精神科医とその助手が病室を覗いた。  そこには孤独の中で闘病している健一がいた。  精神科医は助手に説明した。 「彼は約半年前に入院しました。もともと人との接触が苦手な孤独な若者で、恋人を失って重度の抑うつ症状で入院したのです。入所した時には現実の深い悲嘆と孤独感からロボット美子という幻想を生み出していました。ロボット美子への妄想は、性に対するコンプレックスがあったのもしれないですね。恋人が機械であることで、予測可能な存在になり、肉体的な要素よりも、会話による精神的な安心感を見出そうとしたのかもしれません」  その時、健一の声が病室に響きわたった。 「美子、今度はどこに行こうか? 君が戻ってきてくれて本当に嬉しいんだ」  精神科医はため息をつきながら説明を続けた。 「現実と幻想の狭間で彷徨う彼には、現実を受け入れることが難しいのです。ロボット美子は彼にとって妄想ではなく現実そのものなのです。治療には時間がかかるでしょうが回復することを信じましょう」  精神科医と助手は健一の心の中に広がる深い闇を解放することを改めて決意した。 了
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