1.出会い

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1.出会い

1.出会い  高橋健一、人前で言葉をつまらせ、人との交流が苦手な若者。  彼は黙々とバイトで暮らしを立て、周りとは距離を置いていた。  目立たないように、しかし真摯に仕事に没頭していた。  ある日、大学生の青木美子が短期アルバイトとして姿を現した。  上司の指示に従いながらも、美子はなぜか健一の真剣な働きぶりに興味津々だった。  その視線が、健一の運命を変えることになるなど、美子自身も予測していなかった。  夕焼けの街で、美子が数人の若者に絡まれてしまう。  通り過ぎた健一が、美子を目撃して、初めて大声を発した。 「嫌がっているだろ、手を放せ!」  言葉がもつれ、若者たちは、冷笑して「引っ込んでろ!」と怒鳴った。  健一は大声で怒鳴り返した。 「手を放せ!」  若者たちはその急な反撃に驚き、逃げるように姿を消した。 「ありがとう」と微笑む美子。  健一は赤面し、何も言わずにその場を去ろうとした。  すると、美子が「お礼にお茶でもどう?」と誘った。  これが、二人の交流が始まる契機となった。  二人には共通の趣味があった。  古い邦画、特に小津安二郎の作品に心を奪われていた。  東京物語は昭和28年度の芸術祭参加作品で、人生の哀しさと淋しさを描いた作品で、世界の最高傑作とまで称されている。  ビデオを交換し合ううちに、アパートでの映画鑑賞が日常となった。
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