SCENE2

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 元カレに浮気されても、捨てられても、悲しいより悔しい気持ちが大きかった。  何より、何でいつもこうなるのかって疑問の方が大きかった。  だけど今思えば、予兆なんていくらでもあったのかもしれない。  会えない日があっても仕方ない。  予定があるなら仕方ない。  女の子と話しているところを見ても、ヤキモチなんてみっともない。  我侭言う女は嫌われるから、聞き分けのいい『彼女』でいなきゃ。  そうしてきた結果、いつも駄目になった。  だからって嫉妬丸出しもどうかと思うけど⋯⋯何故だろう、一之瀬の事は気になっちゃう。 (返事保留にしたのは私で仮の彼女のくせに⋯⋯本当、何でだろ⋯⋯)  今さっき別れたばかりなのにこんなにも相手の事が気になるだなんて、本当にどうかしてる。  これまでに体験した事の無い気持ちと一之瀬の用事が気になって、結局この日の夜は心のモヤモヤが晴れなかった。  それから数日が過ぎた、ある日の事。 「あ、陽葵に菖蒲! ねぇねぇ知ってる!?」  昼休みが終わる少し前、総務課で同期の針ヶ谷(はりがや) 満留(みちる)が私と菖蒲の姿を見つけるなり声を掛けてきた。 「何よ、いきなり」 「近々城築広告代理店(うち)にね、他社から引き抜かれた超有望な営業マンが来るらしいよ」 「えー? わざわざ引き抜きで?」 「こう言っちゃなんだけど、うちの会社、そんな大きくもないのにねえ?」 「何でも社長の知り合いだとか。まあ、有望な営業マンって言っても、職種は違うみたい。ただ、トーク力とかスキルがあるらしくて社長が気に入って引き抜いたとか」 「そう。まあ、仕事出来る人間が増えるのは良いよね」  営業という職種は合っていないとなかなかに難しいし、それなりに成績も上げないといけないけれど、うちの会社は社長が様々な業界の人と繋がりがあって仕事相手に恵まれているおかげで均等に仕事が振り分けられているのでギスギスしたりという事は無いから、出来る人間が一人増えたからといって焦る事も無い。  と、私はそんな風に話を聞いていたのだけど、満留が言いたいのは仕事が出来る出来ないの話では無くて、 「それでここからが重要なの! 私は見てないんだけどね、社長のところに挨拶に来たのを見た子の話によると、めっちゃイケメンなんだって!!」  そう、満留が言いたかった事はその営業マンがイケメンという事だったのだ。
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