襲われる

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襲われる

 まさにその時、部屋の扉を勢いよく叩く音がした。女性の声だ。私たち二人は凍りついた。私はドレスのスカートを元に戻そうとした。 「早く出発しないとならないわ、ジョシュア」  扉がまた叩かれた。 「夜までに都まで辿り着かないとならないのよ。馬の準備はできたわよ。今晩バリイエル王朝の君主宣言をするには、今すぐに出発しないとならないわ」  ――やっぱり、ジョシュアがこの国の次の国王となるのね。 「リリア、待ってくれ」  その時ズボンを引き上げてジョシュアは立ち上がった。そして部屋の向こうでドアを叩く女性に声をかけた。  ――リリア?いま、ジョシュアはリリアと言ったわ。嘘でしょうっ!なぜ夫を殺したリリア・マクエナローズ・バリイエルがここにいるの?  私の脳裏に一糸纏わぬ姿で夫ともつれあい、挙句に夫を殺し、『親子揃って女好きの腐った豚め』と吐き捨てるように言いながら、死んだ夫に唾を吐きかけた金髪の美しいリリアの姿が脳裏に浮かんだ。今朝、リリアは私の夫を(あや)めた。  ――あの苛烈な女がここにいる?  ――ちょっと待って?つまり、リリアが夫を殺して逃げるための荷車に私は乗り込んでいたということ?  私はゾッとした。今朝方皇太子殺害現場にいた私とリリアが、偶然にも同時刻にジョシュアの館にいるという事実から、私は真実を悟ってしまった。確かに、荷車の御者は女だった。荷車の馬を(なだ)めている声は女の声だった。  ――あれは、リリアの声だったのね?私は彼女が現場から逃走するために使った荷車に乗り合わせていたのだわ。なんてこと……! 「待てないわよっ!」  女性の怒鳴る声がした途端、ジョシュアの部屋のドアが乱暴に開けられた。同時に金髪のリリアが部屋に飛び込んできた。今朝私が見た時とは違ってリリアは服を着ていた。男性のような格好だけれども、確かにリリアに間違いない。 「あんたっ!なにをしているの!?」
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