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私の視線に気づいたのか華麗なウィンクを残して去っていく、おまけは黙っておけということかな。
「でもさあ、影山さんとなら全然アリだよねえ。かっこいいし繁盛店の経営者だしぃ」
「本当ですよね」
本当です、でも影山さんは忘れられない人がいるから、この先ずっと独身を通すのだろうか。
「結婚式には呼んでね」
畑さんがにこにこと言う。
「はい、お呼びしますけど、当面恋なんてしないなんて」
言わないよ、絶対―、じゃなくて。
「予定はないですよ、全然」
「えー、影山さんとデキたんじゃないの?」
「できてませんよっ」
「えーだってなんか『伝言いい?』とか言って秘密の会話してたしぃ」
「それはっ、ご迷惑をおかけしているだけでっ」
うんうん、そうそう、まさにカラスに襲われた子猫を拾ったようなもの!
「えー、じゃあ私が狙ってもいい? 覚えてもらってるみたいだし、これから毎日ここに通って」
「あ、それは無理だと思います」
思わず言ってしまった、リズや指輪の存在を思い出してだけれど、それを私が言えるはずもない。
「なんでよぉ、やきもちー?」
「そんなんじゃなくてっ、影山さんはその、大切な人がいるそうですっ」
もうこの世にはいない、だからこそ影山さんの心の奥深くに住んでいる女性。私たちが敵うはずもない相手だ。
私の言葉は隣の席の女性たちにも聞こえていたのか、視線を感じてそちらを見れば、皆揃って顔を背けてひそひそと話を始める。
余計なことを言ってしまったかしら……それだけに影山さんがどれだけモテるかが判ってしまった。色男は罪な存在だ。
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