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俺は、ずっとあの少女に会いたいと思っていた。
遠い土地でも考えていたのは少女のことだった。
俺はそれなりにコミュニケーション能力が高かったし、容姿も悪くなかった。遊び相手には困らなかった。
新しい高校や大学では恋人と言われるような存在もいたけれど、何かが違うような気がして、すぐに別れてしまう。
彼女と同じ、あの暗い雰囲気を持つ女性はいない。
俺は大学を卒業してから上京し、あの時の少女の行方を探した。
引っ越し前に通っていた高校の友人や近所に住んでいた知り合いに協力してもらい、ようやく彼女を見つけることができた。
だが、再会した彼女は全くの別人。
本人ではあるのだが、以前のような悲しみをまとった美しさが消えていた。
違う、違う、違う!
俺が会いたかったのは、自信に満ち溢れ、太陽のような笑顔をふりまく「上村 愛美」じゃない。
今にもそこの窓から飛び降りそうな、常に絶望が心の大半を占めているような、そんな「上村 愛美」だ。
俺は、悲しみに打ちのめされている彼女に会いたい。
でも、どうやって?
簡単なことだ。
また、彼女が絶望するような状況を作ればいいだけの話。
そのために、別人を装って近づいた。さて、これからどれだけの不幸に陥れれば、あの時の君に戻ってくれるのだろう。
どうすれば、あの虚ろな目をしてくれるのだろう。
上村 愛美。
俺は、かつての君に会いたいだけなんだ。
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