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side上村 愛美
私は今、幸せだ。
不幸のどん底にいた学生時代とは大違い。
「学生の頃に戻りたい」なんて言う人がいるけれど、それはきっと、幸せな生活をしていたから。
私はあんな地獄の日々に戻りたくはない。
あの地獄から這い上がる為に我慢をし、努力を続け、こうして平穏な日常を得ることができた。
社会人になって仕事が順調なだけではなく、今では素敵な婚約者もいる。
それもこれも、自殺しようと考えていた私を救ってくれた、「カズくん」のおかげだ。生きることに疲れ、自殺しようとしていた私を「バカなまねはやめろ」と叱ってくれたカズくん。
彼が私をなぐさめ、励ましてくれたおかげで私は生きる希望を持つことができた。
通っている高校が違ったから、彼のことは何も知らない。当時の私は携帯なんて持っていなくて、彼とは家の近所でたまに会って話すだけの関係だった。でも、その時の私が、カズくんの言葉にどれだけ助けられたことか。
彼は出会ってからまもなく、遠くへ引っ越しをしてしまった。それきり会っていない。本名も知らない私には、彼を探すすべがなかった。
いつか、カズくんに会ってお礼が言いたい。
私は、その話を婚約者である幸利さんに話した。
「カズくんかぁ。俺の名前は幸利だから、全く違うな。名字も稲木だし。それにしても、婚約者の前で別の男の名前を出すなんて。嫉妬深い男だったらどうするんだよ」
「でも、旦那さんとなる相手には話しておきたくて」
「来月には、愛美も「稲木」だな」
「ふふ、「上村」の名字とはさよならね」
幸利さんには、私がいじめられていたこと、毒親育ちで、社会人になった今では親とは縁を切っていることはすでに話している。
毒親育ちなんて引かれてしまうかも、なんて心配していたが、幸利さんは「大変だったね」と受け入れてくれた。
そんな彼だから、カズくんのことを話そうという気持ちになったのだ。私のすべてを知っていて欲しい。
カズくんは今どこにいるのかな。
会ったら、お礼を言いたい。私の命の恩人。
あの時、あなたが助けてくれたから、今の幸せな私がいる。会いたいな、カズくん。
いつかあなたに会えますように。
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