<1・おちる、おちる、おちる。>

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<1・おちる、おちる、おちる。>

 はっと気づいた時、僕は穴の中を落下している最中だった。 「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」  絶叫。一体なんで、どうしてこんなことになったんだ。何で僕は、深い深い穴の中に落下しているのだ。  しかし、細かいことを考えている余裕はなかった。次の瞬間衝撃が来て、僕は穴の底に激突していたのだから。  幸いにして、下はふわふわした草が生い茂る柔らかい土だった。派手に打ち付けた足がじんじん痺れたものの、どうにか折れることもなく着地することに成功する。 「ううう、いってえええ……なんなんだ、一体」  暫く草の上で蹲り、愚痴を漏らすだけになる。状況が、まったく飲みこめない。右を見ても左を見ても土の壁しかなく、天井を見上げたところで真っ暗な穴があるばかり。相当深いのか、別の理由があるのか、空を見ることは叶わなかった。  わかるのは、ここが縦穴の底らしいということ。  目の前に一つだけ横穴があるので、そこから洞窟の中に入れそうではある。他にも上から落ちてくる奴がいるかもしれないし、ひとまず僕は洞窟に入ることにした。動くたびに、がちゃんがちゃん、と銀色の甲冑が擦れる音がする。赤いマントのようなものがひらひらと背中で揺れていることからして、僕は騎士か何かなのだろうか。なんだか、ファンタジー小説で見る“勇者”みたいな恰好だ。  幸い、僕の力が強いからなのか甲冑が見た目より軽いのか、さほど重さは感じない。  横穴、もとい洞窟に入ったところで、ふう、とひとまず息を吐いた。その場に座り込み、状況を整理することにする。 ――まずい。  そして、すぐに問題に行き当たった。  僕は腰にくっついていたえんじ色のポーチから、手鏡のようなものを発見する。化粧品も入っているし、僕はお洒落な人間だったのだろうか。  鏡で顔を確認する。銀色の長い髪に、紫色の瞳、白い肌。多分二十歳そこそこであろう青年の顔が映し出される。これが自分なのだろう。  だが。 ――まずい。非常にまずい。  冷や汗だらだらになる。この顔に、見覚えがないのだ。そう。
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