ひな祭りの宴

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 あかりをつけましょ ぼんぼりに  おはなをあげましょ もものはな  ひな祭りの歌が聞こえる店の中。節分を過ぎればひな祭り商戦が始まる。私はリユース販売エリアに来た。今はSDGsやリサイクルがもてはやされているので、中古品も堂々と店頭販売されている。商品はクリーニングされて、きれいな状態だ。私はそこにやってきた。ひな人形を見るためだ。  あれは私が小学生の低学年くらいのときだ。何歳だったかは覚えていない。でも、飾りつけを母と楽しみながらやっていた無邪気な年だった。マンションでは大きなひな人形など飾れない。そのため小ぢんまりしたモデルが人気だった。  お内裏様とお雛様だけのものや、三人官女まで、といったもの。すべてそろったものはあまり見かけなかった。  父方の祖母は女の子の孫の私を可愛がってくれたけど、母はあまり好きじゃなかったみたいだ。いつも一方的に物を送ってきて、「置く場所がない」「好みじゃない」と怒っていた。それが父との喧嘩の原因にもなっていた。  そんな中、ひな人形が送られて来たことが両親の大げんかの原因となった。もうとっくに持っていたのに、立派なものが送られてきたのだ。  ひな人形は母方の祖母が買ってくれた、小さなもの。ちょっとデフォルメが入った、可愛らしいものだ。私はこれが気に入っていた。  でも家に遊びに来た父方の祖母はそれをみて「こんなおもちゃみたいなみすぼらしいの、メイちゃんには似合わない」と文句を言って送って来たのだ。  自分の親を馬鹿にされ、置く場所なんてない立派な全種類の人形を一方的に送られてとうとう母がキレた。父はせっかく送ってくれたんだから、と自分の母親を庇う言動が多かったからそれが原因で喧嘩。父は家を出た。  どうせただの家出、すぐに帰ってくるだろうと思っていた母。しかし、あの当時はわからなかったけど。話しあいも設けず一方的に離婚届が届いたのだ。母はショックを受け、相手のことを考えず物を送りつけるのは遺伝なのねと泣き叫んでいた。  ひな祭り当日の出来事だった。母は、ひな人形をそこら中に叩きつけて壊した。特にお内裏様とお雛様は徹底的に壊した。何幸せそうに結婚なんてしてるんだ、と叫んで。私は怖くて、ベッドの上で毛布にくるまって震えていた。
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