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世話をしている馬の餌を、懇意にしている業者のおじさんが届けてくれた。
「おじさん、いつもありがとうございます!」
城門の裏に横付けされた、荷車に積載されているたくさんの藁。布で包まれている大きな藁を、おじさんから受け取り、邪魔にならないところに手際よく積んでいく。あとで城の倉庫から台車を借りて、厩に運ばなければならない。
「アレックスもひとりで大変だな」
「おじさんのところも大変でしょ?」
俺だけじゃなく流行病のせいで、王国内の商業系はどこもかしこも人手不足なのは深刻だった。
「俺ンところは自給自足できるだけ、まだマシだと言える。隣国との貿易が途絶えたせいで、潰れていく家業よりはいいだろう」
「そうですか……」
「そういや、隣国と言えば思い出した」
荷車に積んでいる藁が半分以上あるのに、おじさんは手を止めて、楽しげに俺に向かって話しかけた。病のせいで暗い話題ばかりだと、お互い気が滅入るゆえに、そんなふうに話しかけたんだろう。
「おじさん、なにを思い出したんですか?」
俺も笑顔をまじえて問いかけた。
「隣国にいる、俺の従兄弟の手紙に書いてあったんだけどさ。ウチの国と隣国の狭間に、大きな遺跡がいきなり現れたんだと」
「隣国との狭間って確か、山道が延々と続いているような感じでしたよね?」
数年前に親父と一緒に馬に跨り、隣国に赴いたことがあった。そのときの記憶を頼りに、情景を口にしてみたのだが、もしかしてそれも変わってしまったのだろうか。
「それが一ヵ月間に突然、地割れから遺跡が盛り上がって出てきたらしくてよ。隣国寄りに遺跡があるから、ここではあまり騒がれていないみたいだな」
「我が国は遺跡よりも、流行病で手が足りないですもんね」
肩を竦めて苦笑いを浮かべる俺に、業者のおじさんが得意げな顔で人差し指を立ててみせる。
「それがよ、遺跡の入り口に、不思議な文字が彫られてるんだって。『ここより奥の間に願いを叶える石が眠る』って」
「願いを叶える石?」
願いを叶えるというセリフに、自然と胸が弾んだ。
「おぅよ! 『数ある試練を乗り越えた者だけ奥の間に導かれる』ってことで、隣国の名だたる騎士が挑戦したみたいなんだが」
「数ある試練って、すごく難しそうな感じですよね」
眉根を寄せて気落ちしながら返答すると、業者のおじさんが同じように顔を曇らせながら相槌を打つ。
「そうなんだ、誰も戻って来ないって。入ったら最後、二度と出られないらしい」
(願いを叶える石っていうんだから、相当難しい試練なんだろう。しかも二度と出られないなんて、覚悟を決めなければならないんだ――)
「叶えたい願いがあっても、俺らみたいな一般人が入ったって、どうせ遺跡から脱出できないよな。ほら、藁を受け取れ!」
業者のおじさんの号令でふたたび仕事がはじまり、すべて藁を受け取って、台車に乗せてたそれを城内に運び入れた。
作業をしながら頭の中は、さっき聞いた願いを叶える石のことでいっぱいだった。
隣国の名だたる騎士も出ることのできない数ある試練について、剣はおろか、ケンカすらしたのことのない俺が試練に挑んでも、無駄足を踏むことになるかもしれないけれど。
急いで身綺麗な服に着替え、執事長に話があることを仲のいいメイド伝いに知らせてもらう。執事長は城内を取り仕切る関係で忙しい方ゆえに、いつ返事が来るかわからなかったが、使用人の控室で待たせてもらうことにした。
その間、自身の仕事を放棄してしまうことになるが、致し方ない。
最低でも半日潰れると思ったのに、小一時間後に執事長が控室に現れてくれた。
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