#02. First Encounter

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「良かった。本当に来てくれたんですね。落とし物を受け渡すなんて面倒だと約束を反故にされたらどうしようかと思いました」 「そんな、約束は守ります。スマートフォンを落とされて不便されていたでしょうから」 「ええ、こうして拾ってくださって本当に助かりました」 話しながら久坂さんは私の向かいの席に腰を下ろす。 彼が座るのを見届けると、私はさっそく預かっていたスマートフォンを返却すべく差し出した。 「本当にありがとうございました。御礼にお茶をご馳走させてください」 久坂さんはそう言うと、近くの店員を呼び、メニューも見ずにサクッとオーダーを済ませる。 しばらくして私の目の前に運ばれてきたのは、華やかな3段スタンドに盛りつけられたアフターヌーンティーセットだ。 てっきり紅茶かコーヒーを注文してくれたのだと思っていた私は目を瞬く。 「あの、飲み物をご馳走してくださるってお話だったのでは……? これは……?」 「ここのアフターヌーンティーは絶品なんですよ。せっかくですから、紅茶と合わせてぜひ召し上がってください。それともこの後ご予定があったりで時間がまずいですか?」 「いえ、予定はないので時間は大丈夫なんですけど……。ただ、スマートフォンを拾っただけなのに、ここまでご馳走して頂くのは申し訳なくて」 「気にしないでください。こちらがそうさせて頂きたいだけですから」 にこりと笑顔で返され、それ以上何も言えなくなってしまった私は、ご厚意に甘え、この美味しそうなスイーツを堪能させてもらうことした。 彩とりどりに盛り付けられたスイーツの中から一つをお皿に取り、フォークを使って口に運ぶ。 一口食べた瞬間、口の中はとろけるような幸せが広がった。 ここのアフターヌーンティーが絶品だと言うのは間違いない。 高級ホテルのアフターヌーンティーにも引けを取らないクオリティだった。 甘いものが大好きな私は、遠慮していたことも忘れ、次々にスイーツを口にし自然と笑顔を綻ばせる。 「香澄さんのお口に合ったようで良かった。甘いものがお好きなんですね」 どうやら私がスイーツを頬張る様子を見ていたらしい久坂さんは、そう言ってクスリと笑った。 笑うと弧を描く唇の下にあるホクロに目が行く。 こんな絵になる美形に見られて笑顔を向けられていると思うと、男性にほとんど免疫のない私は恥ずかしくてたまらない。 じんわり頬が熱くなるのを感じた。
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