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「何、初雪まじないって?」
橘 由花子が目を見開いて、尋ねて来た。
切れ長の美しい目を微笑みながら、輝かせて。
大人びた由花子の美しい顔立ちに見惚れながら、説明した。
「初雪が降ったら、好きな人を思い浮かべて降ってきた雪にキスすると想いが通じるんだって」
言った途端に由花子が笑い出す。
美しい人は笑い声まで美しい、と思う。
「何、それ。って言うか、それ雪国のおまじないじゃない? ここ、雪滅多に降らないし。おまじないより先に雪乞いしないと」
からかうような由花子の言葉に頷く。
でも滅多に雪が降らないからこそ、おまじないの効力が上がる気がする。
初雪にキス。
唇に触れた雪は溶けるのだろうか。
そのまま唇に残るのだろうか。
それとも地面にひらひらと舞い落ちるだろうか。
考えていると、由花子がクシャっと私の髪を撫でた。
「そういうピュアなところも可愛いとは思うんだけどね。少し焦れったい」
言っていることが分からずに、困ったように笑う由花子の顔を見つめた。
「すごく好きなのに思うだけ。行動しないで、おまじない頼み」
由花子の言葉は胸にツプ、と小さく刺さる。
「初雪にキス、可愛いおまじないだとは思うけどね。まずは、自分の気持ちを大切な相手に伝える努力をした方がいいと思うんだよね」
由花子は微笑みながら、私の目を真っ直ぐに見つめる。
「力になるよ。大事な繭の話なら。好きな人、誰なのかも教えてくれないけど。言いたくなったらいつでも言ってね」
いつでも話を聞くよ、と言ってくれる由花子の言葉。
思わずそっと目をそらす。
「うん……」
この話題になると、喉に小骨が引っかかっているかと思うほど、声が出しづらい。
チクチクする。
「由花子!」
教室の入り口に、由花子の彼氏である西鷹奏先輩が由花子を呼びに来ていた。
由花子は私の頭を撫でると、教室の出入り口まで、呼びにきた西鷹先輩の元に、軽やかに走って行った。
由花子を見つめる彼の眼差しと、彼を見つめる由花子の眼差しはとても穏やかで、並んで立つ二人は、華やかで、誰の目にもお似合いだった。
私はそっと、おまじないを書いた紙を折りたたみ、手帳にしまった。
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