女の長電話

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女の長電話

 プルルル。プルルル。プルルル。  里美のスマホが鳴る。  ガチャ。出た。 「もしもし」 「もしもし。私よ。友梨よ」 「あー友梨。どうしたの」 「中沢里美ちゃん。二十歳(はたち)のお誕生日、おめでとー!」 「えー覚えててくれたの?うれしー。感謝感激だよ」 「はっはっは。親友の誕生日を忘れるほど友梨ちゃんは薄情じゃないよ」 「ありがとありがと。で、プレゼントは?」 「あははは。プレゼントは愛情よ、愛情」 「あははは。なんでもいいけど、うれしいわ。優しい。ホントありがたいよ。あ、ねえねえ、ところで西高の茂木君、いたでしょう」 「え、茂木君。あのハンサムの。いたいた。彼がどうしたの」 「実はねえ、摩美とうわさあったじゃない。そのうわさが」 「どうしたのよどうしたのよ。気になるう」  電話は続く。 「で、サンシャインなんか古いって言ってやったのよ。孝章に。そしたら孝章なんて言ったと思う?『古いのは里美だけで十分』だって。ひどいでしょう」 「なにあの孝章。調子に乗ってんじゃないの?よし。友梨ちゃんに任せなさい。今度会ったらあのアホ男、私が総力を結集して」 長電話は続く。 「悲しいでしょう。思わず涙が出たわ」 「うん。わかるわかる。そういうのって、一番辛いよねえ」 「わかってくれる?で、敏也の車がそうなら、純一のバイクはどうなるのって話じゃない。藤堂の言い分もわかるけど」 「いや。許せないのは道夫よ」 「道夫はいいのよ。道夫は。核心をついたのは」  長電話は続く。 「と思いきや、なんと店長の仕業だったの」 「えー、トイレで?」 「そう。信じられる?わたしゃ唖然としたよ。こともあろうに、神聖なる職場で、しかも店長がそんなことを致していたとは」 「オーマイゴッドね」 「みんな怒っちゃってね。責任はどうなるんだって話になるでしょ。でも主犯が店長なもんだから」 「店長もクソもないわよ。がつんと鉄拳制裁を」  長電話は続く。  長電話は続く。  長電話は続く。  ……。  ……。  ……。  ……。 「あら友梨、ずいぶん長電話しちゃったわ」 「あらあらそうね。そろそろ終わりにしなきゃ」 「友梨、ありがとうね。うれしかったよ。誕生日コール」 「里美がいてこその私だもん。当然当然。じゃ、最後に改めて言うわね。お誕生日、本当におめでとう」 「ありがとうありがとう。祝ってくれてうれしいわ。  八十八歳、米寿の誕生日を」 
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