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「さむっ」 職場を後にし、外に出た途端冷たい風が布に覆われていない肌に突き刺さる。 斎藤優也(さいとうゆうや)はマフラーを巻き直し、コートのポケットに両手を入れて帰路についた。 大学3年生から念入りに準備をし、見事内定を勝ち取った大手電機メーカー。そこの営業として真面目に勤務し、今年総合職に異動となった。 総合職は、職場の中で最も待遇がいいと言われる部署だ。家族を養うためには稼がなければいけない。総合職への異動は、優也にとって好都合だった。 〈今から帰るね〉 赤信号の交差点で足を止め、優也は妻にLIMEを送る。 妻の成美(なるみ)は優也のひとつ下で、高校時代からの後輩だ。彼女と結婚して半年、彼女のお腹には守るべき命が宿っている。 〈熱出ちゃった。帰りに寄れたら冷えピタ買ってきて〉 成美からの返信は、優也が思っていたものと違った。その内容に優也は驚く。 冷えピタを欲しがると言うことは、よほどの高熱なのだろう。 彼女の体は、彼女だけのものではない。それもあり、余計に心配が募る。 〈食欲は?ゼリーとか食べれる?〉 〈それなら食べれるかも〉 近くの薬局で冷却シートとゼリー、飲料を数本と解熱薬を購入し、優也は急いで帰宅した。 自宅はマンションの5階にある。エレベーターを待つ時間も惜しく、優也は階段を駆け足で上って5階へ向かった。 焦るあまり、鍵を開けるのに手間取りながらも、何とか開錠に成功し、「ただいま」と声を掛ける。 「…おかえり」 玄関までよたよたとおぼつかない足取りで、成美が出迎えにやって来た。 悪寒が酷いのか、彼女はベッドに置いてあった毛布を引きずるように羽織っており、その下にはフリースの上着ともこもこのルームウェアを着ている。 足元もこれまたもこもこの靴下を履いており、見るからに温かそうな装いをしていた。 「休んでなきゃだめだよ」
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