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結局、成美が起きたのは日付が変わる頃だった。
彼女がゼリーを食べ、薬を飲むのを見届けた後、ベッドまで付き添い、それからシャワーを浴びた。
朝は洗濯を回すために早く起きた為、寝不足感は否めない。
優也は欠伸を噛み殺しながら、パソコンと睨めっこする。仕事中に寝てしまわないよう、コーヒーを3缶分飲むほどだったが、それでも眠気は残っていた。
〈病院終わった〉
昼休憩に差し掛かる頃、成美からのLIMEが通知欄に表示される。
〈インフルエンザだって〉
成美からのLIMEを見た瞬間、カフェインではどうにもならなかった眠気が吹き飛んだ。
妻がインフルエンザに罹ったことに対する心配よりも、衝撃の方が強かったからだ。
成美が家から外に出ることはほとんどない。それは、結婚して1ヶ月経った頃からずっとそうだ。
彼女は専業主婦になり、家事をすると優也に言ったが、実際家事のほとんどは優也のタスクとなっていた。
買い出しも料理も、掃除も、洗濯も、仕事の合間に優也がやっている。どうしてたった1ヶ月で、成美が家事をしなくなったのか、明確な理由はわからない。
だが、気が付けばほぼ全て優也の分担になっていた。
成美に家事をやってほしいと促している間に、彼女の妊娠が発覚し、家事は優也が負担し続けている。
――職場で妊娠している人がいるけど、彼女は家事をしているよ。
一度、成美に言ったことがある。彼女はそれを聞くなり涙目で
――妊娠には個人差があるの!私は立ってられないの!しんどいんだよ!?
とヒステリック気味にまくしたてた。それ以来、人と比べてはいけないのだと優也は口を出すことをやめた。家事の分担も、しんどいと言われることが安易に想像できてしつこく言うことを諦めた。
離婚という考えも脳裏を過ぎったことはある。
働きながら家事をほぼ全てこなすのなら、独身の時と変わらなかった。むしろ、成美の分が増えたことで金銭的の面も家事の量も負担が増えた。
だが、考えた時点で結婚から3.4ヶ月だった。結婚生活は我慢の連続だと誰かが言っていたのを思い出しては、我慢が足りないのだと離婚に踏み切ろうとしなかった。
〈人の多いところに行った?〉
優也は、ドキドキしながらLIMEを送る。優也がインフルエンザでない以上、他の第三者からうつされたことになるだろう。
だが、成美はここ数日出かけていないはずだ。何かを隠しているのだろうか――そう思うと緊張せずにはいられなかった。
LIMEは既読になっている。だが、成美からの返事はない。
昼休憩の間、成美から返事が来ることはなかった。
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