1-06フロンティア学園

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1-06フロンティア学園

「こっ、こんなのおかしいわ!! 私がこの世界のヒロインなのよ!!」  私は何か犬の遠吠えみたいなものが聞こえた気がしたが、ここはフロンティア学園の内部で警護の者もいるから気のせいだと思った。そうして私とデクス様は仲良く手を繋いで同じクラスに入った、どの席に座ってもいいということなので一番前の席に二人で座った。そうして二人で政治学についてお喋りしていたら、さっき会ったフルールという女性が空いていたデクス様の隣の席に座った。それから教師がやってきて、私たちは自己紹介をすることになった。 「シャイン・コンセプト・ディアノイアと申します、これからよろしくお願いします」 「俺はデクス・イデア・ストラスト、このストラスト国の第一王子だ」  私もデクス様も手短に自己紹介を済ませた、私が自己紹介をした時には何故か男子生徒が騒めいたが、私は特に気にすることではないと思っていた。デクス様が自己紹介をした時には女子生徒が騒めいた、これは私はデクス様が美男子で王子であるから、側室として目をつけられたい者もいるのだと思った。そうして、次に自己紹介するのはフルールという女性だった。 「フルールと申します、平民出身ですがどうか仲良くしてください」  私はフルールという方が平民出身だったから、先ほどはあんなにデクス様に無礼を働いたのだと思った。でもデクス様がきちんと注意をされたので、もう二度と同じことはしないはずだと思った。そうして他の方々もいろんな自己紹介をしていった、長く話される方もいたし面白いことを言う方もいた。そうして自己紹介が終わって、ようやく教師による授業が始まった。 「あらっ、デクス様。ここは間違っています、正解は『トレイド三世』です」 「自国の歴史も満足に授業できないのか、このフロンティア学園とやらの教師は」 「よく見ると使用する教科書にも、数カ所ですが間違っているところがあります」 「教科書の採択もいい加減なのか、それとも授業中に教師が訂正するのか」 「これは困りました、まずは全教科受けてみてから、間違っている箇所を指摘しましょう」 「ますますこのフロンティア学園に、俺たちが通う意味が分からなくなったな」  その後、デクス様と全教科の授業を受けた結果を私は資料としてまとめた。それにデクス様が教科書を速読して更に訂正箇所を加えた。そしてまたデクス様ができあがった資料を確認されて、正式にフロンティア学園へと抗議をした、学園側はその時のデクス様の冷たい視線に震えあがっていたが、来年度からはもっと厳重に注意をして教科書を採択すると回答してきた。教科書の間違っているところは全部合わせればかなりあったが、教師にその度に必ず訂正させるという回答があった。 「だから俺はこのフロンティア学園に通うのは反対だったんだ、だが逆に良いことが分かった」 「このフロンティア学園に通っている生徒への弊害ですね、確かに未来の我が国の官僚を生み出す学園がこんなことではいけません」 「父上にも申し上げて徹底的に改革させる、できの悪い教師など辞めさせてもっと学のある者を雇う」 「そうした方が将来的によろしいです、今年度は仕方がないとしても来年度までには改革しましょう」 「ははっ、フロンティア学園など通っても意味が無いと思ったが、我が国の官僚をもっと質が高いものにすることができるぞ」 「それでは予備費の中からフロンティア学園の改革、それにさく予算案をまとめて国王陛下に提出致しましょう」  こうして私とデクス様はフロンティア学園の良く言えば伝統ある、悪く言えば凝り固まった体制を変えるように国王陛下に進言した。国王陛下はまず調査をさせてみることにした、だから数か月は様子を見る必要があった。その間、私とデクス様は席を教室の一番後ろに移して、二人だけで授業とは別の勉強をしていた。 「おはようございます、デクス殿下」 「ああ、おはよう」 「今日は良い天気ですね、私と一緒に外で昼食でもいかがですか!?」 「貴様の頭につまっているのは腐った脳みそなのか? それとも腐った脳みそがとけた水なのか?」 「え!?」 「どうして婚約者がいる男と二人きりで食事をするなどと言いだす、それも俺の大切な婚約者であるシャインの目の前でだぞ、貴様の頭の中が腐りきっているとしか俺には思えん!!」  私とデクス様が休み時間を一緒に過ごしていると、時々フルールという女性がデクス様に声をかけては怒られていた。平民出身とはいえフルールという女性の行動はあまりにも酷かった、婚約者がいる男性と二人きりになろうとするとは、婚約者の女性に喧嘩を売っているとしか思えなかった。しかもそれを白昼堂々としてくるのだから問題があり過ぎた、私も彼女の行動には庇う余地が全くなかった。 「あの女は頭がいかれているのか!? 本当に不敬罪で処刑したくなってきた!!」 「平民として育って感覚が違っていらっしゃるのでしょう、でも一度の注意で理解できないのは単純に頭が悪いのでしょう」 「あんな女を見ていると目が汚れる、俺の可愛いシャインだけを見ていたい」 「まぁ、デクス様。そんなに見られたら、見飽きてしまいませんか?」 「俺がシャインに飽きるわけがない、むしろシャインのことがもっと好きになってくる」 「それもそうですわね、私もデクス様を見ていて飽きるということはありませんもの」  私がそう言うとデクス様は頬を赤く染めて嬉しそうに笑った、私も心からの本心だったからその笑顔に笑い返した。デクスさまはカッコ良い美男子に成長されたが見飽きることは無かった、それは常にデクス様は努力し成長を続けていたからだった。私もその隣にいて恥になることが無いように、より一層何事でも努力するようになった。 「今日も君は可愛いな、シャイン。ほらっ、あーんするんだ」 「デクス様、えっと私は一人で食べられます」 「俺の手からは食べたくないのか、シャイン?」 「いいえ、そんなことはありません!? ……いただきます」  そうしてこのフロンティア学園に慣れてきたので、私たちは王宮で過ごす時みたいに二人で過ごしてしまうことがあった。例えば今は私に綺麗にカットしたいろんなフルーツを、デクス様が自ら私に食べさせて幸せそうにしていた。だがここは私たちの通うフロンティア学園の食堂だった、だから私たちは皆からの注目の的になっていた。 「ごちそうさまでした、デクス様」 「うん、今日も綺麗に全部食べれたな」 「はい、デクス様。それでは確か、次の授業は魔法学です」 「そうだったな、それじゃ君と一緒に移動することにしよう」  そう言ってデクス様は私を抱き上げて食堂を出て行った、周囲の皆はポカンと口を開けて驚いていた。私もしまったここは王宮ではなかったと思った、デクス様に抱き上げて運んで貰わなくても私はちゃんと歩けた。でもここでそう言うときっとデクス様がすねてしまうので、私は何も言わずにとても嬉しそうなデクス様に、優しくお姫様だっこをされて運ばれていった。 「それじゃ、ちょっとだけ俺は離れるから、またすぐに会おう」 「はい、デクス様。私もお手洗いに行って参ります」 「悪い人についていったら駄目だぞ、シャイン」 「はい、気をつけます。それでは、また後でお会いしましょう」  私とデクス様が離れるのは学園ではお手洗いに行く時だけだった、それ以外の時間はデクス様とずっと一緒に私は過ごしていた。私自身はそんな生活に慣れていたから平気だった、でもとある人物にはそれが面白くなかったようだ。私がお手洗いをすませて手を洗っていると、女子トイレにフルールという女性が入ってきた。 「貴女のおかげで入学式イベントが起きないし、デクス様と二人だけで話すこともできませんわ!!」 「婚約者がいる男性と二人きりで話そうとする方がおかしいです、あまりデクス様を不快にさせると不敬罪で本当に貴女は処刑されます」  私は一部意味不明なことや文句を言われたが、デクス様が私のことを溺愛するのはいつものことだった。それに婚約者がいる男性と二人きりにさせろという、このフルールという女性が明らかに間違っていた。そう私が言った途端にまたフルールという女性は怒りの声をあげようとした、でもそれよりも強くガンガンと女子トイレのドアを叩く音がした。 「どうしたシャイン!! まさか具合が悪くて倒れているのか!?」  そうデクス様がドアの外から言ったかと思うと、次の瞬間にはそのドアはデクス様に蹴り飛ばされて破壊された。私に文句を言っていたフルールという女性は黙ってしまった、そうして女子トイレであるのにデクス様が私を探して中に入ってきた。私は少々フルールという女性から文句を言われたが、それを正直に言うと冗談ではなく彼女が処刑されるので、黙ってデクス様に抱き着いてそれからこう言った。 「手を洗っていたら少し眩暈がしただけなのです。デクス様、それでは次の授業に……」 「眩暈だと!? 授業なんかに出ている場合じゃない、いつものように主治医に診て貰おう」 「まぁ、それではそうしましょう。確か保健室に主治医の先生がおられます」 「そうだな、シャイン!! それでは、さっさと保健室に行くことにしよう!!」  そう言ってデクス様は私を抱き上げて保健室まで走って行かれた、保健室には私の主治医の先生がいてくださって、一応私の体調を診て貰ったが特に問題はなかった。だから私は少し遅れてしまったが、次の授業にデクス様と一緒に参加した。教師は事前に何か言われているのか、私たちに何も注意をしなかった。私たちは後でトイレのドアを破壊したことを詫び、そしてドア代を弁償しておいた。 「デクス殿下、もう一度だけ私とお話していただけませんか?」 「それは政治の話か? 宰相と話すくらい重要な話か?」 「え!? いっ、いいえ。ただ私は本当にデクス殿下と仲良くなろうと思って……」 「それなら、必要ない。俺にとって貴様の千の言葉より、シャインの吐息の方が聞く価値がある」  授業の間の休み時間にさっき私に話しかけた、フルールという女性がデクス様にまた無謀にも話しかけてきた。デクス様は一応それが政治に関係するのか、宰相と話すくらい価値があるのかを確かめた。そしてそんな価値もない話だと分かると、そのフルールという女性との話をバッサリと打ち切ってしまわれた。デクス様はいつでもどこでもこんな調子だった、国を治める為に必要な話と私の言葉以外は全く聞く気がなかった。 「それではデクス様、授業も全て終わりました。いつもどおり、一緒に帰りましょう」 「ああ、ようやく二人きりなれる。シャイン、俺は嬉しい!!」 「はい、デクス様。私も嬉しいです、それでは王宮へ帰りましょう」 「そうだな、シャイン。それではどうぞ馬車へ、俺のお姫様」  私とデクス様は馬車に乗って王宮へ帰ることになった、馬車の中ではデクス様がいつものようにお膝の上に私を乗せていた。私もそれがいつものことだったので気にしなかった、人目がなくなって私を遠慮なく抱きしめるデクス様を見ていた。そうしてとてもデクス様が幸せそうに笑ったので、私もデクス様に向かって自然と微笑んだ。 「ああ、俺の婚約者がこんなに可愛い!!」 「まぁ、デクス様もとってもカッコ良いのに、可愛らしいお方ですわ」 「そんなにシャインに褒められると、俺はそれだけで幸せだ!!」 「それは良かったです、デクス様。私もとても幸せです、本当に今が幸せです」  私はいつものように王宮に馬車が着くと、デクス様のエスコートで馬車から降りた。デクス様は私と二人きりの時は上機嫌だった、私もそんなデクス様のことが好きだった。私たちは最初は政略結婚だったはずなのに、そうとは思えないほどに仲良くなっていった。デクス様のどこをそんなに私が好きになったのか分からなかった。  初めて会った時には頭が良いが冷たいお方だと思った、でも馬車の事故に遭った時は冷静で私を助けようとする聡明な方だと思った。それからだんだんとデクス様は私との距離をつめてこられた、一緒に王宮に住むと分かった時には私は気絶しそうになった。でも今ではデクス様からの溺愛を心地よく思っていた、私もデクス様のことを大好きだと思い溺愛して差し上げたかった。 「デクス様に溺愛されて私は幸せ、いつかきっとこのまま仲が良い夫婦になりたい」
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